そもそも株って何ですか? あなたが知らない株主のパワーとは

長嶺超輝
2018年12月11日 8時00分

「そもそも株って何ですか?」——そう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

「出資して、企業を経済的に応援するもの」というのもひとつの答えですが、この「応援」という言葉には、どこか距離を置いた第三者的なニュアンスが含まれています。

しかし、企業の株式を買うことは、「会社の共同オーナーになれる権利」を買うことであって、実は、株主は会社の構成員(社員)そのものなのです。

株とは? 株主とは?

日々の銘柄選びや取引に熱心になっているとつい忘れがちですが、株とは、会社の支配権・所有権そのものです。

企業の支配権を買おうと思えば、本来、莫大なお金がかかるわけですが、その支配権を非常に細かく分けて、普通の人々でも買いやすくした仕組み、それが「株式」なのです。

そして、その株式を保有していれば「株主」です。ちなみに、法律用語で「社員」というと株主のことを指し、まさに株主こそが会社の構成員であることを示しています(企業に勤めて働いている人のことは「従業員」といいます)。

株主が持っている2つの権利

株主には、大きく分けて「自益権」と「共益権」という2種類の権利があります。

株主個人が得られる「自益権」

自益権とは、株式の売却益や配当、株主優待など、株主自身にメリットが得られる権利です。これらの権利は非常になじみ深いでしょうが、自益権には他にも種類があります。

株主を辞めることができる「株式買取請求権」

会社が合併など大規模な事業再編を予定している場合、その決定に反対する株主もいるでしょう。その際、会社から出資金を取り戻して株主であることを辞める権利として「株式買取請求権」が認められています。

未上場であれば当然ですが、上場企業の株式でも、市場で高く売れなくなる可能性を否定できないため、株式を会社に買い取ってもらうことができるのです。

会社がなくなったときの「残余財産分配請求権」

さらに、残念ながら会社が経営を終えることになり、買掛代金の支払いや融資への返済など(清算)を終えても、なお会社財産に余りが生じているときは、それぞれの株主は持ち株数に応じて公平な分配を受ける権利があります。

この「残余財産分配請求権」も、いざというときのために株主が常に持っている、重要な自益権のひとつです。

会社経営に参画! 「共益権」とは?

自益権が株主個人のみの利益を指すのに対し、共益権は会社全体の利益のために、意見を物申したり、会社に要求したりできる、株主の「経営参画権」をいいます。

株主は、会社の共同オーナーとして、会社の出した利益から分け前を得る立場です。

一方で、会社を実際に動かしているのは従業員であり、その従業員がどのような方針に沿って働くかを決めるのが、代表取締役などの役員です。

しかし、取締役にすべてを任せてしまうと、重大な判断ミスによって会社が傾いてしまうかもしれません。それでは利益が減って配当を受け取れなくなるおそれがありますし、最悪の場合は経営ミスが原因で倒産するかもしれません。

そこで、会社の経営に関する重大な決定については、株主も関わることが認められています。それが共益権なのです。

株主だからできる、あんなことやこんなこと

ひとりでできるもん! 「単独株主権」とは?

共益権には、1株以上持っていれば誰でも行使できる「単独株主権」と、限られた一部の大株主のみが行使できる「少数株主権」とがあります。

株主総会に出ると特典が付いてくる

単独株主権の代表格といえるのが、株主総会での議決権です。

株主総会は、会社の重要事項を決めるにあたって、取締役会を超える権限を持つ最高意思決定機関です。日本では、毎年6月に株主総会が開催されることが多く、決算月の権利付き最終日に株式を保有していれば誰でも出席できます。

郵送などで議案に反対の意思表示をすることもできるので、総会に出なくても議決権は行使できますが(何もしなければ賛成したものとみなされます)、株主総会に出席すると、以下のような特典が付いてきます。

  • 会社の現状などについて、直接聞くことができる
  • 直接、経営陣に質問することができる(※ただし、質問できる株主の人数や質問時間は厳しく制限されています。会社側に確実に答えてほしいことがある場合は「事前質問状」を使うといいでしょう)
  • 総会での話し合いを聞いてから、議決権(反対の意思表示)を行使できる
  • 帰りに「おみやげ」をくれる会社もある

会社を支配したいなら……

株主総会では、参加者の頭数に応じた通常の多数決ではなく、議決権を行使する株主が保有する株式の割合に応じて賛否を決する「資本多数決」が採用されています。

つまり、たとえ1万人の小株主が全員反対していても、発行済み株式の50%超を保有する大株主1人が賛成すれば、議決が通るのです。会社に多額の出資するほど強い共益権を持つのは、会社が利潤追求を目的にする組織である以上、仕方のないところです。

言い換えると、過半数の株式を保有していれば、この資本多数決により、その会社を事実上支配できることになります。会社の支配権が欲しい人は、その会社が発行した株式の過半数について譲渡を受ければいいということです。

ほかにもある! 単独株主権のいろいろ

単独株主権には、ほかにも以下のようなものがあります。なお、株式を公開している会社の株主で、以下の権利を行使するには、株式を6カ月間保有していなければなりません。

・株主代表訴訟の提起権
取締役や監査役などが会社財産を害する不正行為を行い、会社が彼らを提訴する動きがないとき、会社に代わって、会社全体の利益のために、株主は最低ひとりで裁判を起こすことができます。訴訟手数料は一律8,200円です。

・取締役の行為の差し止め請求権
取締役が法令違反や定款違反を行い、会社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、事前に差し止めを求めることができます。

・新株発行の差し止め請求権
株主が増えれば、利益配当が明らかに減ったり無くなったりするおそれがある場合などに行使します。

・株主総会の決議取り消しの訴えの提起権
株主総会の手続きに不備があったり、決議内容が定款に違反している場合などには、最低ひとりの株主で訴えを提起できます。

より深く経営に関われる! 少数株主権とは?

先ほど説明したように、資本多数決のもとでは、過半数の株式を持っていれば会社を支配下に置けます。しかし、過半数まではいかずとも、大量の株式の譲渡を受けることによって、その会社で数少ない大株主(少数株主)となり、会社へ与える影響力のより強い共益権を得ることができます。

株主の保有割合に応じて、次のように、会社経営に深くコミットすることが法的に許されます。

  • 全体の1%以上……株主総会の招集手続等に関して、会社の業務・財務状況を調べる検査役の選任を請求する権利
  • 全体の1%以上または300株以上……株主総会での議題提案権・議案通知請求権
  • 全体の3%以上……検査役の選任を請求する権利(業務の執行に関し、会社の業務・財務状況を調べる)/会計帳簿の閲覧請求権/株主総会の招集請求権/役員解任の訴えの提起
  • 全体の10%以上……会社解散の訴えの提起
  • 全体の6分の1以上……簡易合併に対する拒否権
  • 全体の3分の1以上……合併・会社分割・定款変更などの拒否権

今日はどこの株主になりましたか?

もちろん多くの投資家・トレーダーにとって、株は、自らの利益を目指すための投資対象でしょうが、ふだん売買している「株」というものが持つこれらのパワーについても、ぜひ知っておくといいのではないでしょうか。

株式の大量取得といったニュースの意味や背景が、これまでよりも深く理解できることもあるでしょうし、長期保有して会社を本当に「応援」している場合には、ひょっとすると、これらの権利を行使する日が来るかもしれません。

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[執筆者]長嶺超輝
長嶺超輝
[ながみね・まさき]法律・裁判ライター。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)のほか著書多数。
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