株主優待はもう古いって誰が言った?

千葉 明
2024年2月6日 12時00分

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

株主優待が減っているのは本当か?

 株主優待。一定数の株式(単元株~)を保有する株主に対する、企業からのプレゼント。そんな株主優待策を執った第1号は、東武鉄道<9001>とされている。同社の『社史六十五年史』には「明治32年(1899年)、優待株数300株以上、鉄道全線に使用可、優待株主数41名」と残されている。

 だが、株主優待策を実施する企業は今、「頭打ちから減少傾向」という。大和総研が2023年春に発表したレポートでは、こう記されていた。

●2022年9月時点で、日本では全上場企業の約4割に当たる1,463社が株主優待を実施している。優待実施企業数は過去20年以上にわたっておおむね増加基調にあったが、2019年をピークに頭打ちとなった。
●(前略)優待は機関投資家や外国人株主にとってメリットが薄い、などといった課題を抱えているとの指摘もあり、株主の平等性の観点から廃止する企業が存在するようだ。

大和総研「近年の株主優待の実施動向と、廃止による株価下押し圧力の推計

 確かに、頭打ち傾向は認められる。2023年9月末での実施企業は、1477社。しかしその一方で、株主優待を新規に導入、あるいは更なる注力姿勢を示す企業も少なくないのも事実だ。

 前者では例えば、昭栄薬品<3537>が昨年末に実施を発表した。界面活性剤に代表される、再生可能・環境負荷が低いパーム及びヤシなどの天然油脂由来の油脂化学品(オレオケミカル)を事業化している。具体的には「300株以上の株主」には「有明海産味付け海苔『撰』6缶」ま「福山製麺所『旨麺』2食」「KEY COFFEE監修 キリマンジャロコーヒーのティラミス 1個」「紀州南高梅はちみつ入り梅干し500g」(いずれか)といった内容。

 後者では、オリエンタルランド<4661>。東京ディズニーランド・東京ディズニーシーで使えるワンデー・パスポートが、100株保有者に年に1枚(400株で2枚)供与される。さらに、長期保有者に対しては東京ディズニーリゾート35周年・40周年の記念イヤーに、パスポートが上乗せして配られるに至っている。

ありがたい株主優待あれこれ

 株主優待企業への投資家というと、元棋士である桐谷広人氏が有名。「年間の生活必要品の大方が株主優待で賄える」としている。保有株は明らかにしていないが、「こんな銘柄が入っているに違いない」と推測してみると……

  • イオン<8267>……100株以上の保有株主には優待カードを発行。系列店での買い物時に提示すると、後日3~7%のキャッシュバックが受けられる。バック率は保有株により異なり、半年に一度、現金で返金してもらえる仕組み。
  • サッポロホールディングス<2501>……保有株100株以上200株未満で4本、200株以上1000株未満で8本のビール詰め合わせ。2000株以上の保有株主には系列店で使用できる優待券。
  • ライオン<4912>……保有株数に関係なく一律にライオン製品の詰め合わせセット(歯磨き・歯ブラシ・ボディソープ・衣類用洗剤など)。
  • ヤマダホールディングス<9831>……買い物優待券。100株以上500株未満で年間3000円分、500株以上1000株未満で5000円分。一度に54枚(2万7000円分)まで使える。1年以上長期保有すると、さらなる優待券も配布。

 ちなみに株主優待策投資に徹した桐谷氏は、実施企業側のメリットについても言及している。「(個人)株主の数が増える」「株を売らない投資家が多くなり、株価が安定する」「自社のファンが増やせる」「割安に株主の満足が得られる」。

 投資にあたっては「配当+優待」という視点から捉えるべしとする見方もある。1月に優待を実施した企業に鳥貴族ホールディングス<3193>がある。内容は優待食事券(電子チケット)。1月の株価から計算すると「配当利回り0.29%+優待利回り0.65%=0.87%」。ガーデニング関連製品のタカショー<7590>の場合は「0.83%+4.99%=5.82%」など。

株主優待を巧みに活かした企業

 ところで、ウィルズ<4482>をご存じだろうか。株主優待商品の交換サイト「プレミアム優待倶楽部」を運営している。株主優待を巧みに活かした企業ゆえに、優待の廃止・企業減少はビジネスの根幹を揺さぶりかねないのではないか……そんな思いから久方ぶりに、ウィルズの今(収益動向)をのぞいてみた。

 プレミアム優待倶楽部の礎は、倶楽部に加入する株主優待企業だ。企業が倶楽部に登録すると、株主は保有株数・保有期間に乗じて「プレミアムポイント」を取得する。そして、「貯まったポイント数に応じ、株主となっている優待企業の自社商品を優位に交換できる」「貯まったポイントをウィルズコイン経由で他社ポイントと合算できる」「貯まったポイントに応じ、提携する百貨店・旅行会社などの商品に交換できる」などの活用が可能。

 倶楽部に加入する優待企業にとっては、「株主還元策の拡充」と「株主増加・安定化」をつなげられるといったメリットを得られる。

 さて、ウィルズの現況はどうか。ホームページには「昨年12月の倶楽部加入企業5社」(先の昭栄薬品もその1つ)など、加入動向の推移が誇らしげに記されている。同社は2019年の上場だが、2021年12月期以降の収益推移は以下のとおり。

決算期売上高営業利益配当
2021年12月期+38.8%+30.6%2.5円
2022年12月期+13.0%+34.6%7.0円
2023年12月期
(予想)
+6.1%
(40億4900万円)
+6.8%
(7億5000万円)
9.5円
(創立20周年配含む)

 今通期は未発表だが、開示済みの第3四半期の実数は「売上高:33億4800万円」「営業利益:7億6400万円」「最終利益:5億2200万円」。その決算資料には、昨年9月30日時点で株主優待制度を導入する企業の数は「1477社」と記されている。現在株価は700円水準で、税引き後の予想配当利回りは1.1%強。1月12日には723円まで買われる場面もあった。

 創業社長の杉本光正氏は、なんとも巧みは枠組みの人気企業を興したものだ。

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[執筆者]千葉 明
千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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