時価総額から見えてくる意外な事実 プロは常にここを意識している
時価総額から何がわかるのか
株式投資に関する記事を読んでいると、「この企業の時価総額は○億円だが……」といった表現をよく見かけます。この「時価総額」とは、現在の株価に発行済株式数をかけて求められる数値で、企業の価値を評価する際の重要な指標のひとつです。
時価総額は、以下の計算式で求められます。
マーケットでついている株価が常に正しいとは限りません。したがって、それをもとに計算される時価総額も、企業価値を正確に表しているかと言えば、必ずしもそうとは言えない場合もあります。しかし、そうであっても、企業の価値を計る物差しとして、時価総額以上に適切なものが存在しないことも、また事実なのです。
テクニカル分析に基づく短期トレードでは、株価水準を考慮することが大切です。
一方で、ファンダメンタルズ分析に基づく投資を行う際には、株価だけでなく、時価総額を頭に入れておくことが重要になります。なぜなら時価総額を比べることで、企業間の比較が容易にできるからです。発行済株式数が違う企業同士の株価を比べても何の意味もありません。
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株式投資を始めたばかりの方は、どうしても株価に気をとられるあまり、株価だけで企業についての判断を下してしまいがちです。また、少なくなっているとはいえ、いまだに「日立と東芝の株価の差が……」といった話をする人もいます。
しかしながら、株式分割が頻繁に行われ、旧50円額面(現在は「額面」という概念自体がありません)の株とそれ以外の株が混在している現在のマーケットにおいて、2社の株価だけを単純比較することはナンセンスと言わざるを得ません。
業界内の「横比較」ができる
それでは、時価総額を比較すると何がわかるのでしょうか? わかりやすい例として、自動車メーカー各社の時価総額を比べてみましょう(2016年10月28日終値ベース。以下同)。
企業名 | 時価総額 | 株価 | 発行済株式数 |
トヨタ自動車<7203> | 20兆1715億円 | 6043円 | 33億3799万7492株 |
本田技研工業<7267> | 5兆7060億円 | 3150円 | 18億1142万8430株 |
日産自動車<7201> | 4兆5032億円 | 1051.5円 | 42億8271万5112株 |
富士重工業<7270> | 3兆1536億円 | 4100円 | 7億6917万5873株 |
スズキ<7269> | 1兆8181億円 | 3703円 | 4億9100万株 |
いすゞ自動車<7202> | 1兆910億円 | 1286円 | 8億4842万2669株 |
マツダ<7261> | 1兆374億円 | 1729.5円 | 5億9987万5479株 |
三菱自動車<7211> | 8707億円 | 591円 | 14億9028万2496株 |
日野自動車<7205> | 6532億円 | 1137円 | 5億7458万850株 |
トヨタはホンダの3倍以上、日産の4倍の時価総額を持つ圧倒的な存在であることが一目瞭然です。一方で、日産は、株価だけを見ると日野よりも安値がついているのですが、9社の中でもっとも多くの株式を発行しているため、それが時価総額の大きな差になって現れています。
このように時価総額で比較してみると、売上高や営業利益などから漠然と抱いていた企業のイメージや、業界内の序列のようなものと、実際の企業価値(=時価総額)の間には、かなりの乖離があると感じた人も多いのではないでしょうか。
さらに、ここに自動車部品メーカーを加えると、また新たな事実を発見することができます。
デンソー<6902> | 3兆5558億円 | 4478円 | 7億9406万8713株 |
アイシン精機<7259> | 1兆3628億円 | 4625円 | 2億9467万4634株 |
2社の時価総額を上の完成車メーカーのランキングに当てはめてみると、デンソーは日産と富士重工(スバル)の間にランクされ、アイシン精機はマツダやいすゞよりも上位になります。消費者からは直接目につきにくい部品メーカーが、実は非常に大きな存在感を持っていることが、時価総額を比べることでよくわかるのです。
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また、「3大メガバンク」という言い方をされることから、3強が並び立っているようなイメージのある大手銀行についても、時価総額を比べると以下のようになります。
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306> 7兆7064億円
- 三井住友フィナンシャルグループ<8316> 5兆1174億円
- みずほフィナンシャルグループ<8411> 4兆4502億円
このように、業界内での「横比較」に、時価総額が非常に有用であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。なぜ、時価総額に差があるのか? それは正当な差なのか? そうしたことを考えていけば、その業界に対する理解度が深まることは間違いないと思います。
国際間の比較も容易にできる
時価総額のもうひとつのメリットとして、企業の国際間比較が同じ尺度で容易にできる、という点が挙げられます。たとえば、ソニーとアップルでは、いまや時価総額で15倍以上もの差がついてしまっていることがわかります。
- ソニー<6758> 4兆1685億円
- アップル<AAPL> 64兆7881億円(6170億3000万ドル/1ドル=105円で計算)
ソニーに限らず、同業の有名企業同士を比べてみると、日本企業の時価総額はアメリカ企業に比べてはるかに小さいケースが多いことがわかります。興味のある方は調べてみることをお勧めします。アメリ版のヤフーファイナンスやGoogleファイナンスで「MarketCap.」と書いてあるのが時価総額です(単位のB〔billion〕は10億ドルの意味)。
時価総額を利用する際の注意点
株式投資をする際に押さえておくべき基本的な情報であり、活用することで様々なメリットもある時価総額ですが、いくつか注意が必要です。
・新株発行に注意
ひとつは、資金調達のための新株発行による影響がある点です。時価総額は、株価と発行済株式数のかけ算です。だから、ある企業の時価総額が過去と比較して増えていた場合、新株を大量に発行したことが要因かもしれないのです。
そもそも、過去のある時点での時価総額を調べること自体が難しいので、それほど心配する必要はないのですが、もしこのようなケースがあったら、その期間内に新株発行がなかったかどうかを確認したほうがいいでしょう。いずれにせよ、ひとつ企業について時系列で比較する際には、株価の変動を見るほうが適しています。
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・優先株等に注意
もうひとつの注意点は、優先株や他の種類株など、普通株以外の株式が発行されているケースです。「時価総額」と言った場合、普通株の時価総額を指すのが一般的ですし、ヤフーファイナンスなどで表示されている時価総額も、この数値です。しかし、優先株等が発行されている企業については、その分も時価総額に足さないと、普通株しか発行していない企業と同条件での比較はできません。
優先株とは、配当を普通株より優先して受けられるなどの権利をもつ株式です(その代わり、議決権に制限があることが多い)。優先株を発行している企業は多くはありませんが、自己資本を発行済株式数で割っても1株当たり純資産の数字と一致しない場合には、優先株を発行していないかどうか調べてみる必要があります。
なお、優先株を含む「種類株」の情報については、上場企業が提出している「有価証券報告書」から確認する方法があります。具体的には、金融庁が運営する「EDINET」で確認したい企業を検索し、第6項にある「株式事務の概要」から株式発行状況を確認できます。
http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
ファンダメンタルズ投資の基本
時価総額を把握することは、ファンダメンタルズに基づく投資をする上で基本的、かつ非常に重要なことです。時価総額を常に意識して企業を見ていくことで、業界内での「横比較」が簡単に行えたり、国際比較が行えたりするため、対象企業の評価の相対化が可能になります。また、対象企業の所属する業界を深く知ることにもつながります。
時価総額はヤフーファイナンスに載っている、だれでも簡単に見ることのできる情報ですから、常にチェックして、意識する癖をつけましょう。