月を目指すベンチャーか、安く生まれた高配当株か。2023年のIPO市場をにぎわせた銘柄たち

かぶまど編集部
2023年12月25日 15時00分

《日経平均株価が33年ぶりの高値を更新した2023年の株式市場。具体的に、どんな銘柄が注目を集めたのでしょうか。かぶまど執筆陣が2023年相場で気になった銘柄を振り返ります》

【特集】相場をにぎわせた「今年の銘柄」2023

悲喜交々をつめ込んだIPO劇場

・ispace<9348>

ispace<9348>は月面への輸送サービスの商用化を目指す企業で、2023年4月12日に東証グロース市場に新規上場(IPO)しました。日本の宇宙スタートアップで初の上場企業です。

宇宙関連銘柄のIPOというだけでも話題沸騰なのに、さらにIPO後には、前年12月に打ち上げられたランダー(月着陸船)の民間では世界初となる月面着陸、という重大イベントが控えている! その壮大で夢のあるストーリーに、投資家は皆ワクワクしたものです。

IPOでは、企業価値を無視して投資家の期待感で株価が形成されることも多いもの。ispaceの初値は公開価格254円の3.9倍をつけましたが、上場当日に「月面着陸は4月26日夜」と報道され、「舞台は揃った」という同社CEOのコメントが出たことで、投資家マインドはヒートアップ。

株価はその後も「月まで届け!」と言わんばかりにグングンと上昇し、上場6日目の4月19日には9倍以上まで駆け上がりました。ストーリーとしてはちょっと出来すぎなのでは……? と思わずにはいられないくらいの盛り上がりを見せたのです。

ところが、月面着陸はまさかの失敗! 瞬く間に失望売りが広がりました。

もちろん宇宙関連銘柄は、将来性やビジョンへの共感や期待から投資する案件です。それでも、業績は大幅な赤字が続いており当面は利益も期待できない、そもそも着陸成功の可能性はどれくらいなのか、などなど疑うべき問題はさまざまありました。

まさか失敗するとはカケラも思っていなかった自分への戒めとなった「ispace劇場」。IPOの良いところ・悪いところのすべてをギュッと詰め込んだIPOとなりましたが、それでも「やっぱりIPOは夢がある」と思わせてくれた銘柄でもありました。

(選・岡田禎子個別株偏愛」)

失敗からの巻き返しに注目したい

・ispace<9348>

IPOの観点から2023年を振り返り、特に注目した銘柄としてispace<9348>を取り上げたいと思います。理由としては以下の3点があります。

  • 国内初の宇宙ベンチャーのIPO
  • 初物好きのIPO市場を再認識
  • IPO後に失敗した月面着陸実験
国内初の宇宙ベンチャーのIPO

ispaceは国内初の宇宙ベンチャーのIPOとなりました。2022年頃からAI関連銘柄のIPOが盛り上がり現在に至りますが、宇宙ベンチャーが今後新たなIPOの人気カテゴリーとなる可能性もあります。

宇宙ベンチャーとしては、テスラ創業者であるイーロン・マスク氏が設立したスペースX(未上場)が有名ですが、国内にも複数の宇宙ベンチャーが存在します。ispaceは、そうした国内宇宙ベンチャーIPOの先駆けとなりました。

初物好きのIPO市場を再認識

赤字でのIPOとなったispaceでしたが、公開価格254円に対して初値は約4倍の1,000円となりました。時価総額は公開価格で約200億円、初値では約800億円です。2023年3月期の売上高9.8億円、経常利益▲113億円の企業の時価総額としては、合理的な説明ができない水準です。

ただし、IPO市場には「初物好き」という一面があります。国内初の宇宙ベンチャーのIPOであり、初物好きのIPO市場の特徴が見事に現れた銘柄となりました。

IPO後に失敗した月面着陸実験

ispaceは、IPO後に行われる月面への着陸実験を成功させる、というのが成長シナリオでした。しかし、それは失敗に終わっています。一時2,373円まで上昇した株価も、5月には793円まで下落しました。

ただ、赤字継続企業で成長シナリオがIPO後に崩れる……という厳しい状況ながら、株価はその後も700~800円台は維持しており、底割れしていません。株価的には、投資家の期待感はいまだ健在、といえる状態です。

国内初の宇宙ベンチャーによるIPOとして注目されたispaceですが、期待された成長シナリオが崩れた今、巻き返しを図ることはできるのでしょうか。IPO銘柄としてだけでなく、国内宇宙ベンチャーのトップランナーとしても、2024年のispaceの行方も注目されます。

(選・石井僚一IPO通信簿」)

安く生まれて…大きく育つか?

・JRC<6224>

2023年の新規上場(IPO)企業は2年ぶりに増加した。IPO銘柄は先々の成長企業予備軍。株式投資による「資産形成」の検討の対象とも言える。兜町の古参住人は目をつけておきたい条件として、「早々に配当を開始」「中計を示す」「安く生まれて(公開価格>初値)大きく育つ」などを指折り数える。

2023年のIPO組では、8月に上場したJRC<6224>に興味を持った。上場後初の決算となる2024年2月期に「配当性向3割目標」を公にし、現に「21円配当」を計画している。かつ、新たな「成長事業」を抱えている。そんなIPO企業にはめったにお目にかかれない。

ベルトコンベア関連部品でトップシェアを誇る。製造からメンテナンスまでを手掛けている。歴史は古い。1961年(昭和36年)に浜口匠氏が、大阪でコンベア製品の製販事業を始めたことに始まる。91年、3代目となる現社長の浜口稔氏がJRCを設立した。

今期は「6.47%の増収、8.95%の営業増益」計画。うち、ベルトコンベア事業が「4.1%増収、7.1%営業増益」に対して、注力のロボットSI事業は「46.9%増収、22%営業増益」。絶対額こそ前者が大方を占めるが、伸び率は後者に顕著。

ロボット事業(ブランド名「ALFIS」)には2018年に進出。「自社工場で培った合理化のためのロボット導入の経験・ノウハウが基盤」としている。工場の生産ライン向けに、たとえば樹脂成型型の組立工程の全自動化が可能。「言い換えれば労働力不足の補填、労働力コストの削減に寄与する」

JRCは8月9日に上場。公開価格1,110円に対し初値は1,022円。7.9%の下値で生まれている。高値は翌9日の1,056円。12月22日終値は713円で、予想配当利回り3%余り。時間軸・株価軸から考えると「すでに地相場入り」とも見えるが、断じることは難しい。

しばらくは様子見が賢明だろうが、好配当利回りを享受しながら、引き続き注目してみたい。

(選・千葉 明兜町今昔ものがたり」)

[執筆者]かぶまど編集部
かぶまど編集部
無防備なまま株式市場に参加して大切なお金をなくしてしまう人をひとりでも減らしたい──そんな思いから、未来の株価や相場を予測するのではなく、過去の事例やデータといった「普遍的な事実」に焦点を当てた記事を発信します。同時に、株初心者の方や、これから株を本気で始めようとしている方にもわかりやすい解説を心がけています。
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