ネット証券の手数料無料化で何が変わる? 個人投資家が気をつけるべきこと

山下耕太郎
2020年4月10日 11時30分

ネット証券の手数料無料化が加速

2019年末から、インターネット証券の手数料無料化合戦が過熱しています。きっかけとなったのが、フィデリティ証券の投資信託の手数料無料化。2019年11月、「オンライン0%プログラム」の条件を満たした顧客に対して、インターネット経由の投資信託購入時の手数料をすべて無料にしたのです。

2019年11月から投資信託の取り扱いを開始したLINE証券も、購入手数料ゼロで、100円から購入できるようにしました。12月には、auカブコム証券(旧・カブドットコム証券)が信用取引の手数料撤廃を発表。さらに松井証券が投資信託の販売手数料の無料化を打ち出すと、他社も追随しました。

手数料無料化が進む背景

手数料無料化の背景には、高齢化が進む中で、老後の資産形成の重要性が高まっていることがあります。日本の手数料は海外に比べて割高とされ、資産形成のための手数料引き下げ圧力が強かったのです。

とくに、手数料稼ぎのために株式や投資信託を頻繁に売買させる金融機関も多くあり、金融庁は手数料の透明化を求めています。ネット証券は対面型の金融機関に比べると、人件費などの固定費を低く抑えることができ、売買手数料無料化の流れを牽引しているのです。

海外ではアメリカが先行しています。2019年10月に米ネット証券大手のチャールズ・シュワブが1回あたり4.95ドルの株式手数料を撤廃。同業のTDアメリトレード・ホールディングなども相次いで手数料を撤廃しました。

アメリカで始まった手数料無料化の波は、わずか2カ月で日本にも押し寄せてきたことになります。ただ、ネット証券でも純営業収益の2~6割を取引手数料が占めています。そのため、今後の業績への影響も懸念されます。

コストは手数料だけじゃない

しかし、手数料無料化といっても、投資家にとってすべてのコストがなくなるわけではありません。株式と投資信託の主なコストについて見てきましょう。

株式(信用取引)
  • 売買手数料
  • 金利(信用買い)
  • 貸株料(信用売り)

株式の売買手数料では無料化が進んでいますが、信用取引の金利や貸株料は証券会社の収益の柱として残ります。

実際、auカブコム証券は信用取引の売買手数料を無料にする代わりに、金利を引き上げました。それでも、取引高が変わらなければ収益は大きく落ち込みますが、手数料無料化によって投資家層を広げ、金利収入をメインにしていく戦略です。

投資信託
  • 販売手数料
  • 信託報酬

投資信託のコストには色々な種類がありますが、投資家にとって負担が大きいのは「販売手数料」と「信託報酬」です。今後は販売手数料のほうでは無料化が進み、信託報酬が主なコストとして意識されるでしょう。

なお、信託報酬とは、投資信託を管理・運用してもらうための経費として、保有している間ずっと投資家が支払い続ける費用です。投資信託の種類によって異なりますが、年0.5~2%程度が一般的です。

手数料無料化で何が変わる?

ここで、ネット証券各社の収益構造を見てみましょう。

出典:SBI証券 2020年3月期上半期決算説明資料

株式の売買手数料等である「委託手数料」は、他社と比べて最も低いSBI証券で全体の23.2%、高い松井証券では50.4%となっています。しかし、信用取引を行う投資家に貸し付ける金銭や株券に対する金利による収益である「金融収益」が、それを上回っている証券会社がほとんどです。

たしかに収益の20%以上を占める委託手数料がなくなるのは大きなダメージですが、手数料無料化によって投資家層を拡大し、今後は金融収益を増やしていくという戦略が考えられます。

証券会社はフロー型からストック型へ

今までは預かり資産が少なくても、デイトレーダーなど少数の顧客が何度も売買してくれれば手数料収入を得られていました。これまでは、売買頻度が重要なフロー型(売買手数料重視)のビジネスだったからです。

しかし、信用取引の金利や投資信託の信託報酬は、預かり資産残高に比例します。そのため、売買手数料の無料化を進むなかでは、預かり資産を増やす「ストック型」へとビジネス転換することが急務です。

これまでも証券会社では「フロー型からストック型への転換」を目指していましたが、目先の手数料収入を捨てることができずに頓挫。しかし、アメリカから始まった今回の波は止められないでしょう。今後は、手数料無料化が対面型の証券会社にも広がっていくかどうかが注目されます。

個人投資家としては、これまでは売買手数料の安さが証券会社選びの大きなポイントになっていましたが、今後は取引ツールや投資情報などサービス面での比較がより重要になりそうです。

信用取引には注意が必要

証券会社の売買手数料が無料になれば、信用取引を手がける個人投資家も増えることが予想されます。証券会社も積極的にキャンペーンを行うでしょう。しかし、信用取引には金利や貸株料などのコストがかかる点に注意が必要です。

短期で売買すれば金利などのコストはあまり気にならないかもしれませんが、必ず損切りできるとは限りません(もちろん適切に損切りできることが理想ですが)。現物株であれば保有コストはかかりませんが、信用取引では保有しているだけで毎日コストがかかるのです。

また、売買手数料が無料化になっても、信用取引で必ず利益が出るわけではありません。信用取引は、うまく実践できれば大きな武器となりますが、売買手数料だけでなく、信用取引そのもののリスクを十分に把握した上で取引を開始することが肝要です。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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