「テーパリング」で何が起きる? 株価や景気に与える影響を考える

山下耕太郎
2021年9月16日 12時00分

《高まるインフレ懸念にとともに、株式市場では金融政策「テーパリング」の話題が増えてきました。テーパリングが始まると一体なにが起こるのか? 過去に行われたテーパリングを振り返りながら、株式市場の混乱を招く(かもしれない)事態に備えましょう》

テーパリングとは?

9月21・22日に開催予定のアメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、金融政策「テーパリング」の行方が注目されています。

テーパリング(Tapering)とは、「先細り」「次第に先が細くなっていく」という意味で、「量的緩和の縮小」を指します。量的緩和とは、国債をはじめとする大量の金融資産を市場に供給する金融緩和政策のこと。それを段階的に減らしていくのが「テーパリング」です。

こうした金融政策を行うのは、日本なら日本銀行、アメリカでは連邦準備制度理事会(FRB)といった中央銀行です。

中央銀行は、景気が後退すると政策金利を引き下げてお金を借りやすくする「金融緩和」を行います。しかし、政策金利を0%近辺まで引き下げても景気が回復しなければ、今度は「量的緩和」を行って銀行に積極的な融資や金融資産購入を促し、経済の活性化を図ろうとします。

その後、景気回復の目処が立てば、その量的緩和策を徐々に縮小していくことになるのです。

前回アメリカでテーパリングが行われたのは2014年1月から10月まで。9回にわたって、毎月850億ドルだった資産買い入れ額(不動産担保証券〈MBS〉400億ドル、長期国債450億ドル)が減額されました。

〈参考記事〉知らないともったいない、金融政策を株式投資に生かす方法

テーパリングとアメリカ経済

なぜ今、テーパリングが注目されているのでしょうか。その理由は、世界最大の経済大国・アメリカの動向にあります。

新型コロナウイルスの感染拡大による金融市場や経済の混乱を収めるため、FRBは、2020年3月に大規模な金融緩和を実施しました。

はじめは政策金利の引き下げを行いましたが、6月に量的緩和も開始。2021年8月現在、FRBは量的緩和策として、国債を月800億ドル、不動産担保証券(MBS)を月400億ドルの計1,200億ドルを買い入れることを目標としています。

しかし、市場にお金が大量に供給される量的緩和は、インフレリスクが高まるという副作用もあります。

実際に、大規模な金融緩和策や経済対策、そして新型コロナワクチンの普及により、アメリカ経済は急速に回復。インフレ状況を把握できる指標「消費者物価指数(CPI)」は2021年5月に5%を超え、大きく上昇しています。

そこで、今度はFRBが金融引き締めをいつ行うのかが注目されているというわけです。

テーパリングで株価は下がる?

テーパリングが行われると、理論上は株価が下がります。

なぜなら、テーパリングによって金利が上昇すると、利回りが魅力的になった債券が買われて、その結果として株式が売られる傾向にあるからです。また、長期金利が上昇すると企業の資金調達コストも上昇することから、やはり株価は下落します。

前回FRBが量的緩和を行ったのは、2008年のリーマン・ショック後でした。そして、その量的緩和策を終了させる前に、大きな混乱が起こりました。

2013年5月、当時のバーナンキFRB議長がテーパリングの可能性に言及すると、長期金利が急上昇し、株価は下落。さらに、新興国からの資金流出による通貨安などが起こりました。これは、「バーナンキ・ショック」「テーパータントラム」と呼ばれています。

当時、FOMCが四半期ごとに発表する政策金利の予想分布(ドット・チャート)では、2015年12月まで3回の利上げが予想されていました。しかし、テーパータントラムを受けて、実際の利上げは2015年12月にようやく開始されたのです。

テーパリングの「織り込み済み」がカギになる

ただし、テーパリングが行われても必ずしも株価が下がるとは限りません。

そもそもテーパリングを開始できる(=量的緩和を終了できる)のは景気が回復しているからであり、実際、前回のテーパリングが始まった2014年のダウ平均株価は、年間で7.5%上昇しました。

確かに2013年5月の「テーパータントラム」では株式市場が混乱しましたが、その時点でテーパリング開始に向けた情報を織り込んだため、2014年1月から10月にかけて行われたテーパリングでは、株式市場に大きな混乱は起きませんでした。

つまり、FRBが株式市場にどう働きかけるかが重要なカギとなるのです。

最近のアメリカの金融市場では、景気回復を示す経済指標が発表されるたびに「FRBがテーパリングをいつ始めるか」という推測が盛り上がりを見せています。とくに、毎月発表される雇用統計やCPI(消費者物価指数)では、反応が大きくなっています。

したがって、株式市場ではすでにテーパリングを意識した動きが見られ、テーパリングが始まる可能性があることは「織り込み済み」と考えられます。また、FRBは過去にテーパータントラムを経験しているので、株式市場との対話を慎重に進めていくだろうとも見られています。

今後もテーパリングに関する議論によって長期金利が上昇し、株安となる場面もあるかもしれませんが、混乱は少ないのではないか、と考えられるのです。

〈参考記事〉アメリカが利下げすると日経平均は? FRBの金融政策が日本の株価に与える影響とは

テーパリングはいつ始まる?

では、テーパリングはいつ始まるのでしょうか。

市場では、9月のFOMCで最初の警告が始まり、12月の会合でテーパリングの開始を予告、来年早々にも開始する……という見方が多くなっています。具体的には、アメリカ国債と住宅ローン担保証券(MBS)を同じ比率で減らしていくと見られています。

FRBは「インフレ率の上昇は一時的」「景気は引き続き弱く、下振れのリスクが大きい」とし、金融緩和を長期化させる姿勢を表明してきました。しかし、6月のFOMCでは、FRB当局者18人中11人が2023年末での利上げを予想。FRBの慎重な姿勢も変わりつつあるようです。

7月に開催されたFOMCでは、景気判断が前向きに修正されました。パウエルFRB議長は記者会見で早期のテーパリング観測を否定しましたが、テーパリングの開始時期は少しずつ近づいている、との印象を与えました。

実際、8月に公表された7月のFOMC議事録では、大半の委員が年内のテーパリング開始を支持していることが明らかになりました。

足下では、新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大が懸念材料ですが、景気に大きな影響を及ぼさなければ、年末から来年にかけてテーパリングが現実のものになる可能性もありそうです。

FRBの発言には要警戒

FRBの金融政策を占う上で注目されるのが、FRB議長の任期。現在のパウエル議長の任期は、2022年2月5日までとなっているのです。

上院での承認公聴会などのスケジュールを考えれば、任期切れの3か月前、つまり今年の秋頃には、バイデン大統領がパウエル議長の再任か後任の指名を発表するのが通例。パウエル議長が続投するかどうかによって、FRBの金融政策方針が変わる可能性も捨てきれません。

FRBの発言は、アメリカ経済はもちろん日本経済にも大きな影響を与えます。今回は、すでにテーパリングが始まる可能性があることが株式市場に織り込み済みのため、反応も限定的になるとは見られていますが、今後の金融政策に関する情報には十分警戒したいところです。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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