企業と投資家に利益をもたらす「競争優位性」について誤解されていること

朋川雅紀
2022年2月10日 11時30分

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企業価値を高める「競争優位性」とは

「耐久力のある商品」には多くの人が高い価値を見出し、そのため高いお金を払ってもいいと考えるのと同じように、「耐久力のある企業」、つまり「高い競争力を持つ企業」の価値は高いと私は考えています。

競争優位性」とは、企業が長い時間をかけて構築してきたビジネス上の構造であって、ライバルは簡単に真似できないものです。そうした競争優位性のある企業のほうが長期間にわたって利益を生み出すことができるため、価値が高くなります。

「競争優位性」は、「いつなくなるかわからない企業」と「徹底的に粘る企業」を見分けるための枠組みを提供してくれます。

そして、「構造的な優位性」を持っている企業は、一時的なトラブルから回復する可能性が高いとも言えます。何かうまくいかないことでもないかぎり、質の高い企業がお買い得になることはめったにありませんので、素晴らしい企業を妥当な価格で買いたい投資家にとっては、その機会を利用できます。

競争優位性をもたらす4つの要素

次の4つが、企業に構造的な競争優位性をもたらすと考えられます。 

  • 無形資産
  • 顧客乗り換えコスト
  • ネットワーク効果
  • コストの優位性

無形資産──「あればいい」というものでもない

ブランドや特許、行政の認可などによって、企業は市場で独自の地位を確立することができます。

ブランドが経済的な優位性を築けるのは、それが消費者のさらなる購買意欲を促すか、さらなる顧客を囲い込める場合に限られます。価格決定力を得るかリピーターを作り出さなければ、それは競争上の優位性を築いたことにはなりません。

重要なのは、ブランドの人気よりも、それが顧客の行動に影響を与えるかどうかなのです。

同じように、特許が本当に継続的な優位性をもたらしてくれるのは、様々な特許製品に関して企業が改良を重ね、その実績が継続する場合に限られます。分散された特許のポートフォリオと刷新を重ねてきた実績がある企業でなければ、競争優位性があるとは言えません。

行政の認可があると他社は市場に参入するのが非常に難しいか、もしくは不可能になります。価格決定が規制されている市場ではその効力は発揮できません。たとえば、電力会社は行政によって電力料金は管理されているため、利益率は高くなることは想定されません。 

乗り換えコスト──銀行の利益が高い理由

(顧客の)乗り換えコストとは、社の製品からB社の製品に換えたときのコストが、そのときの利益よりも大きいことを意味します。これには、再教育・訓練や精神的な負担なども含まれます。  

乗り換えコストは競争上の価値ある優位性になります。もし顧客がライバル企業に移る可能性が低ければ、企業はより多くの金額を顧客から引き出すことができるからです。

できるだけ安いガソリンを求めて、近くのガソリンスタンドを探し回ることをする人も、安い手数料や高い金利を求めて、あちこちの銀行を探し求めることはしません。それは、銀行を変更するとなると、新しい銀行への書類を書き、振り込みや引き落としの設定も変更しなければなりません。

このように、銀行を変更するにはイライラすることが多いため、そのようなことを頻繁にしようとは思いません。つまり銀行は、高い乗り換えコストのおかげで高い利益を得ているのです。

・ハードとソフト、どちらが優位か?

法人向けサービスにおいても、顧客の業務プロセスと一体化することができれば、顧客の乗り換えコストが高くなり、それが価格決定力と優れた利益率をもたらすことが可能になります。

ハードウェアは、業界標準に合わせて製造されることが多いため、簡単に他社製品と取り替えられてしまいますが、ソフトウェアは、正常に作動させるためには他のソフトウェアと統合させる必要があるものが多く、それが顧客の囲い込みと高い乗り換えコストにつながっています。

したがって、ソフトウェア会社のほうがハードウェア会社よりも構造的な優位性を作りやすいと言えます。

一方、乗り換えコストが安く、消費者はどこの店舗でも簡単に行けるし、人気のコンセプトはほぼ確実に、かつ簡単に真似されるレストランや小売業は、競争上の優位性を築くのが非常に難しい業界です。

長年にわたって正しいことを着実に実行し、顧客の支持を得てきたケースも多くありますが、それは簡単なことではありません。スターバックスSBUXやマクドナルドMCD>などは、その成功例と言えます。

ネットワーク効果──良い輪こそ広がる好循環

クレジットカード、オンライン・オークション、金融取引所などで見られるように、ユーザー数が増えれば、製品やサービスの価値は上がります。そして、ネットワークの存在によって価値の上がった製品そのものが、さらに多くのユーザーを引き付けることになります。

小さなネットワークは締め出され、優秀なネットワークが拡大する、という好循環が生まれます。

このネットワーク効果は、物理的な資本に基づいた事業よりも、情報や知識移転が基盤となる事業においてより多く発揮されます。多くの品物は一度に一人しか使えませんが、情報を共有したりユーザー同士をつないだりするビジネスにおいては、多くの人が同時に使うことが可能になるため、ネットワーク効果が機能している可能性が高いからです。

コストの優位性──誰にも真似できない

企業は、競合他社よりも低コストを維持することでも、優位性を作ることができます。

コスト面の優位性は、顧客の購入条件のうち価格が大きな部分を占める業界で特に重視されます。そこには、①安い製造過程、②有利な場所、③独自の資産、④規模の大きさ、という要因があります。

 ①安い製造過程

プロセスによるコストの優位性が、ライバル企業がすぐに真似できなかったり、真似することが業界の経済性を損なったりする場合は、一時的な優位性になり得ます。

トヨタ自動車7203>の生産方式のような独自の業務プロセス改善活動は簡単には真似されませんし、米サウスウエスト航空<LUV>の低コスト戦略では、大手の航空会社では組合の問題でパイロットが機内清掃に従事できないように、わかっていても同じ戦略を取れないケースもあります。

②有利な場所

場所による優位性は真似するのが難しいため、企業努力などのプロセスよりも耐久力があります。重くて安くて生産地の近くで消費されるコモディティ(=商品)によく見られます。

セメントや砂利の運搬車が建設現場まで長い距離を移動しなければならない場合、コストがかさんでしまいます。顧客の近くにいるセメント工場や砂利メーカー業者のほうが確実に低コストとなり、ライバル企業がそこに割り込むのは難しくなります。

③独自の資産

コモディティの生産者に限られるかもしれませんが、世界規模の資産を持っていて、他社よりも低コストで採掘できれば、競争上優位に立てます。たとえば、もし企業が資源の鉱床を所有していて、他の資源会社よりも低コストで採掘できれば、競争上の優位性を保てるでしょう。

④規模

規模に由来するコストの優位性について考えるときは、絶対的な規模よりもライバル社と比較した規模のほうが重要になります。固定費の割合が変動費よりも高ければ、規模のメリットは大きくなります。

サービス業などでは規模の拡大によるメリットは限定的ですが、たとえばソフトウェア企業では、販売増にかかる追加のコストがほぼゼロであるため、プロダクトの開発に関わる販売量あたりの固定費は、販売量の拡大によって劇的に低下します。それゆえ、規模の経済性の恩恵を受けることが可能です。  

誤解されている「堀」

競争優位性は企業とその利益を守る「堀」になってくれますが、同じように考えられているものの中には、実際には「堀」としての役割を果たせないものもあります。それはたとえば次のような要素です。

  • 優れた製品
  • マーケット・シェア
  • 効率的な業務執行
  • 優れた経営者

優れた製品は短期的には利益を生み出してくれますが、事業を守ってくれる競争優位性がなければ、ライバル企業がすぐに押し寄せて利益を侵食してしまいます。

大きなマーケット・シェアが企業の競争上の優位性を助ける場合はありますが、それが単独で経済的な「堀」になることはほとんどありません。

ムダのない業務執行ができれば、同業他社よりも効率化を図ることができるかもしれませんが、それが簡単に真似のできない独自のプロセスに基づくものでなければ、継続的な優位性にはなりません。

優れた経営者が並みの経営者よりも会社にとっていいことは間違いないですが、ひとりの人間が大きな組織に与えることができる実際的な影響は、それほど大きくありません。また、優秀な経営者が業績向上の助けになるのは確かですが、他社からの引き抜きもあっていつまでいてくれるかわかりません。

そう考えると、経営者は競争優位をもたらす決定的な要件とはならないようです。

数字による裏付けを

企業の使命は、資金を受け入れ、それをプロジェクトや製品やサービスに投資して、さらに資金を増やすことです。したがって、どれだけ資金を増やすことができたかを見れば、優れた会社と並みの会社を見分けることができます。 

優位性は数字に表れます。優れたリターンを示すことができない企業に、安易な期待をかけるべきではありません。数字による裏付けがなければ、通常は「競争力がない」ということになります。投資対象を見極めるにあたっては、キャッシュフロー、売上、利益率などに注目し、数字を確認する必要があります。 

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[執筆者]朋川雅紀
[ともかわ・まさき]個人投資家・株式投資研究家。大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立する。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。かぶまどアワード2021スマニュー賞
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