他人の判断ミスをチャンスに変える? 成功する投資家が肝に銘じていること

朋川雅紀
2022年3月25日 8時30分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

損得を前に、人は合理的ではいられない

 人間の感情というものは、取引のチャンスが生まれる源であり、同時に乗り越えなければならない最大の壁でもあります。感情に振り回されなければ成功しますが、感情の影響を軽視すれば危機に陥ります。

 人の心を読むことができれば、取引をうまく運ぶことができます。市場は人で構成されており、人は誰もが希望や恐怖や悩みを抱えているからです。投資で成功するには、人間の感情からチャンスが生まれるのを、虎視眈々と待ち構えなければなりません。

 行動ファイナンスの研究が進み、人は意思決定の際に感情に左右されやすいことが明らかになりました。行動ファイナンスとは、売買の決定に影響を及ぼす認知的・心理的要因に着目することで、相場動向を説明しようとするものです。この研究により、人は不確実な状況では体系的に過ちを犯すことがわかりました。

 株価の変動によって、他のことでは我慢強い人でも泣き言を言わずにはいられない状況が作り出されることがあります。金銭的な損得は、人生において最も大きなストレスの一つであることは間違いありません。

 行動ファイナンスによれば、人は大きなストレスを受けると、完璧で合理的な決断を下せなくなると言います。成功する投資家は、人間のこうした傾向を踏まえたうえで、そこから利益を得ます。彼らは、他人の判断ミスがチャンスにつながることを知っていて、そういうミスが市場の値動きにどう現れるかを理解しているのです。

非合理的な投資家の「認知のゆがみ」

 長年にわたり、経済・金融理論は、「合理的な経済人」という仮説を土台に発展してきました。これは、人間は意思決定の際、合理的に行動し、手に入るあらゆる情報を精査する、という前提です。熟練した投資家からすれば、こうした前提は現実を無視したものであると言わざるを得ません。

 行動ファイナンスの学者たちは、非合理な思考パターンを「認知のゆがみ」と呼んでいます。ここに、取引に影響を与える認知のゆがみをいくつか紹介したいと思います。 

・損失回避

 利益を得るより損失を避けることを優先しようとする傾向のことを言います。損失回避が作用すると、投資家は儲けを得るより損失を出すまいとする心理が強くなります。

 例えば、損失が現実になることを回避するために、投資家は含み損のあるポジションを維持しようとします。ポジションを維持している限り、いつか市場が活況を取り戻し、損失が利益に転じるという希望を持ち続けることができるからです。

 事前に取引を降りると決めた価格をさらに下回ったとしたら、それは自分の見通しや思惑の誤りを市場から告げられたようなものです。しかし、あいにく、想定以上の含み損が発生した時点で、損失回避はそれまで以上に強くなります。やがて、避けたかった損失は膨れ上がり、考えるのもつらくなります。多くの投資家はそのままずるずるとポジションを維持し、有り金をほとんど失うか、3割から5割、つまり当初の思惑から大きくかけ離れた規模の損失を出し、パニックに陥って、ようやく取引を降りることになります。

 取引の上での損失回避は、ルールに厳格に従おうとする心理を妨げる働きをすることもわかっています。というのも、ルールに従って被った損失は、そのルールを使って得たはずの利益よりも大きく感じられるからです。ルールに従っているのに損を出したときは、チャンスを見逃して儲け損なったり、ルールを無視して損を出したりしたときよりも、受ける心の痛みが強くなります。自分のミスであれば、反省や慰めにつながりますが、正しいことをして結果が出ないと自信をなくしてしまうからです。

・埋没費用効果

 これから支払うことになる費用より、すでに支払ったか、支払うことが決まっている費用のほうを重視する傾向のことを言います。

 ビジネスで埋没費用と言うと、すでに発生していて回収できない費用を指します。埋没費用効果とは、すでに支払った費用、つまり、埋没費用に意思決定が左右される傾向のことです。

 埋没費用効果の作用を受けると、投資家は、市場が今後どう動くかに関係なく、投資の継続が損失の拡大につながるとわかっていても、それまでに費やした労力やお金、時間などを惜しんで投資をやめられなくなります。

・結果偏向

 ある決断の良し悪しを判定するのに、どんな時点でどんな決断を下したかではなく、決断がもたらした結果から判定しようとする傾向のことを言います。

 取引の場では、たとえアプローチの仕方が正しくても結果が伴わないことがあります。それも、立て続けに何度もうまくいかないこともあります。そうなると投資家は自信を失い、意思決定プロセスに問題があるのではないかと疑い始めるのです。

・直近偏向

 過去のデータや経験より、最近のデータや経験に重きを置く傾向のことを言います。

 昨日の取引は先週の、あるいは去年の取引よりも重視されます。2か月続いた負けトレードは、その前に6か月続いた勝ちトレードと同等か、それ以上の重みがあると見なされます。つまり、たいていの投資家は、最近行った一連の結果だけを見て、自分の手法や意思決定プロセスに疑念を抱くようになります。

・アンカリング

 簡単に手に入る情報に頼り過ぎる傾向、あるいはそれに縛られる傾向のことを言います。

 不確実さが支配する意思決定の場面で、人は容易に手に入る情報に頼り過ぎる傾向があります。例えば投資家は、最近の株価を強く意識し、現在の株価がその価格とどういう関係にあるかを基準に、意思決定を行ったりします。

 しかし、最近の高値を強く意識すると、現在の株価をそれと比較すれば、現在の株価はいつでも割安に見えてしまいます。

・バンドワゴン効果

 ある物事を「大勢が受け入れている」という理由で受け入れる傾向のことを言います。「群れ効果」と呼ぶこともあります。

 人は、大勢が支持するからという理由で、ある物事を支持するようになります。バブルの最後に訪れる青天井の価格上昇は、バンドワゴン効果が一因のこともあります。 

・小数(少数)の法則

 少な過ぎる情報から、不適切な結論を導き出す傾向のことを言います。

 小数の法則の魔術にかかると、ある集団から取り出した少量のサンプルには、その母集団の特性がそっくり現れているかのように思わされてしまいます。小数の法則とは、統計学で言う「大数の法則」をもじったもので、これは、大量のサンプルにはそれが取り出された母集団の特性がそっくり現われるという法則です。

 これとは対照的に、あまりに少ないサンプルには、元になる母集団の特性が反映されません。3年連続で市場平均を上回る実績を上げたファンドマネージャーが称賛されることがありますが、あいにく2〜3年程度の実績では、長期的な期待値がどの程度かはほとんど予測がつきません。統計学的根拠に照らし合わせると、確信のある結論を引き出すには情報量が十分でない、ということです。

 小数の法則の影響を受けると、人間は、安易に過大な信頼を寄せることになります。ここに「直近偏向」や「結果偏向」が加わると、せっかく有効なアプローチ法を取っていても、そのアプローチ法が機能し始める前に、それを放り出してしまうかもしれません。

ゆがみを知ることが第一歩

 このように認知のゆがみは、投資家に計り知れない影響を及ぼします。言い換えれば、こうした認知のゆがみに惑わされなければ、取引を優位に運ぶことができるようになるのです。まずは、日々の取引において、自分もこれら認知のゆがみに陥っている可能性があると気づくことが重要です。

 そのうえで、世の多くの投資家はこうした認知のゆがみを抱えていると理解すれば、他の投資家たちの判断ミスの隙を突いたり、先手を打ったりして、自分のチャンスに変えることができるようになります。結局のところ、マーケットは人で構成されているのですから。

[この執筆者の記事]

[執筆者]朋川雅紀

[ともかわ・まさき]個人投資家・株式投資研究家。大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立する。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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