「日経平均が上がったから」 株高に踊らされる投資家が見落としがちなこと

石津大希
2021年3月4日 8時00分

《相場全体が大きな変動を見せるとき、その裏では金融緩和や円高・円安など、何らかの出来事=材料が起きています。では今回、日経平均株価を引き上げた材料は何だったのでしょうか? 相場を動かす力の正体を見極めずに銘柄を選ぶと、思わぬ外れクジを引いてしまうかもしれません》

高値圏の相場でパフォーマンスが冴えない理由

日経平均株価が30,000円台にまで上昇するなど、日本市場は1990年以来、実に30年ぶりの高値圏にある。1年前の2020年3月には新型コロナウイルスに対する警戒感を受けて16,000円台にまで下落していたことを考えると、その上昇の勢いの強さにより驚きを覚える。

2020年3月以降、インターネット証券の口座開設数が増加するなど、コロナ禍をきっかけに株式投資を始めた人は多いようだ。

しかし、「ビギナーズラック」では済まない高パフォーマンスを上げた人がいる一方で、なぜか自分が持っている銘柄だけ上昇の勢いが弱い……それどころかマイナスになっている……という人もいるのではないだろうか。これだけ相場が上昇する中で、一体なぜこのような現象が起こるのか。

上昇する相場には「牽引役」が存在する

足元の日経平均の勢いは誰の目にも明らかだ。しかし、より細かい分類、たとえば業種別の動きを見ると、やや様相が変わる。というのも、日経平均は2020年3月に急落した後、比較的安定して値を上げてきたが、相場を押し上げてきた業種はタイミングによってまちまちだったからだ。

新型コロナウイルスは中国で初めて感染が報告された後、欧米や日本など世界中で流行。結果として海外貿易に大きな支障が生じたため、急落直後は海外情勢の影響を受けづらい内需・ディフェンシブ業種が強い動きを見せ、相場を牽引した。具体的には小売業や食料品、情報・通信といった業種だ。

〈参考記事〉コロナショックで上がる株・下がる株を見極める「物色の連想」

しかし、欧米を中心にコロナの影響を考慮した経済対策が活発化すると、それまで売りに押されていた外需・景気敏感業種に買い戻しが向かい、今度はそれらが相場を押し上げる展開となった。具体的には輸送用機器や機械、鉱業、鉄鋼、海運といった業種だ。

そして、コロナワクチンの開発が進んだほか、アメリカ大統領選挙を経て追加経済対策に向けた期待がさらに高まると、その流れはより一層強まった。

つまり、日経平均の上昇には、タイミングごとに異なる「牽引役」がいたことになる。そして、どんな業種・銘柄が牽引役になるかは、その時の材料次第ということだ。

この構造を把握しないで、「相場が上昇している! 前から気になっていた銘柄を買ってみよう!」といった短絡的な行動に走ると、相場状況と噛み合わず、結果として冴えないパフォーマンスになってしまうことがある。

相場を押し上げている「背景」を考える

昨年からのコロナ相場に限らず、相場全体が大きく上下する際、その背景には何らかの「材料」がある。その材料により、特定の業種やテーマが大きな影響を受ける。

たとえば、金融緩和が活発化すると、債券利回りの低下により銀行や保険は相対的に弱いパフォーマンスを見せることがある。また、円安が進むと、輸送用機器や機械など、売上における海外比率が高い銘柄が買われやすい。

このように、「材料と業種・テーマ」のセットで考えるクセを身につけると、経済情報を投資に結びつける能力が高まり、結果として投資の選択肢が増えたり、パフォーマンスが向上しやすくなったりする。

〈参考記事〉その材料、オイシイのはいつまで? 材料の賞味期限が株価に与える影響とは

ただ、セットとひと口に言っても、どんな材料にどの業種・テーマがセットになるかは特に決まっているわけではない。株式投資には「連想ゲーム」の側面があり、一見すると関係ないような業種がセットになることもあり得る。

株式投資を始めたばかりであれば、経済新聞やニュースなど「◎◎を受けて、◎◎業種が上昇した」といった表現に注目したり、なかでも伸びている銘柄の業種やテーマを考えるようにすることで、連想のネタを少しずつ頭に入れていくことができるだろう。

株式投資の醍醐味は意外と面倒くさい

材料と業種・テーマをある程度セットで見られている場合でも、適切な銘柄選びができているかをチェックすることは必要だ。というのも、相場に影響を与える材料はリアルタイムで刻々と変化していくからだ。

たとえば、米バイデン大統領の打ち出す大規模な経済政策について、協議が順調に進展している時には外需・景気敏感業種は強い動きを見せやすい。しかし、「反対意見を表明する動きが出てきた」といったニュースが流れると、一転してそれまで買われていた銘柄から資金が流出することがある。

つまり、セットに合った投資をしているからといって、それで安心できるわけではなく、日々のニュースに気を配り、「自分が選んだ材料にどんな変化が起こっているか?」「自分の選んだ材料以外で、相場を大きく動かすような材料は出てきているか?」といった点に気を配ることも重要となる。

そういう姿勢で日々のニュースや情勢を追っていると、その都度、銘柄を見直す必要に迫られて「面倒くさいな〜」と感じる人もいるかもしれない。だが、そもそも株式投資は「情報戦」でもあり、こうした点に醍醐味を感じる人も多いはずだ。

もし面倒くさくて嫌になってしまうくらいなら、たとえば投資信託にするとか、もっと長期視点の投資に切り替える(たとえば10年とか)など、投資スタイルを見直してもいいのかもしれない。いずれにせよ、嫌々やっても利益を出せるほど、株式投資は簡単ではないのだから。

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[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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