株の失敗にもつながる「情報の非対称性」ってナンダ!?

小田 静
2018年3月5日 8時20分

情報の非対称性」という言葉をご存じでしょうか? 経済学の用語で、売る側と買う側では持っている情報量が違うため取引が不公平になってしまう状況のことを言います。実はこれ、株での失敗を防ぐためにも、とても重要な考え方なのです。

「情報の非対称性」をざっくり解説

中古車を買うとき、あるいはレストランを予約するとき、商品やサービスの情報をなるべく多く、正確に知りたいものです。

そこで実物を見たりインターネットで調べたりして、少しでもその価値を見極めようとしますが、なかなか正確な情報はわかりません。結局のところ、中古車なら乗ってみる、レストランなら食事をしてみることでしか、本当の良し悪しはわかりません。

しかし、中古車ディーラーは車の正確な状態を私たちよりも把握していますし、レストランのシェフも同じです。このように、情報の量や正確さが売り手と買い手で不平等な状況が「情報の非対称性」です。

株における「情報の非対称性」とは

株式投資でも、まったく同じです。私たちは上場企業についてさまざまな情報を調べて、その会社の価値を見極めようとします。決算情報だけでなく、新聞、雑誌、ウェブなどなど。

そこで会社の「正しい姿」がわかればいいのですが、どうしても分析しきれないことがあります。たとえば経営者の能力や経営戦略の方向性、コーポレートガバナンスのほかにも、従業員の士気や技術力などは、内部の人間でなければ知りえない情報です。

どれだけ企業側が「うちは良い会社ですよ」と宣伝したとしても、投資家との間にはどうしても「情報の非対称性」があり、だからこそ投資家は難しい判断を迫られるわけです

非対称だからこそ起こる問題

株をやる際に「情報の非対称性」によって起こる問題には、2つの側面があります。

  • 逆選択
  • モラルハザード

良かれと思ったのに……「逆選択」

逆選択とは、望まない取引相手を避けて好ましい相手だけを選択するために対策した結果、かえって優良な相手が離れてしまい、残ったのはもっと好ましくない相手ばかり……。つまり、良かれと思って行った対策が逆効果になってしまう状況です。

少しでも良い投資にするために、稼ぐ力が強くて、今後の成長が見込めて、好調な業績が期待できる企業を探そうとします。しかしながら、数千ある上場企業の中から見つけ出すのは大変です。

そこで、稼ぐ力を簡単に判断する指標として「株主還元」に注目します。「稼ぐ力が強ければ、配当金を出す余裕もあるはずだ」というわけです。株主還元とは、配当や自社株買いです。

【関連記事】急増する「自社株買い」 個人投資家のとるべき戦略を3つのポイントから解説

高還元銘柄の落とし穴

このときに注意すべき落とし穴があります。それは「株主還元は必ずしも業績の良さを表すわけではない」という点です。というのも、株主還元に積極的な企業には以下のパターンが考えられます。

  • 業績が良く、新たな投資に回してもまだ資金に余裕があるから、株主に還元する。
  • 業績は良くないが、今後のために株価を高くしておきたい。それには株主を引き付ける必要があるので、あえて株主にとって魅力的な高還元を続けている。

株価は市場の需給で決まるものです。稼いでいる企業はもちろん、今は不調でも将来が期待できる企業であれば、株価は自然と上がっていくはずです。そうであるのに、「高還元」をアピールすることで株高を取り繕うということは、もしかすると何らかの問題を抱えていたり、経営者自身が自社に魅力がないと考えていたりする可能性があるのです。

投資家にしてみれば、(高還元だから)稼いでいる企業だと判断したのに、それがかえって逆選択の罠に陥る危険を秘めている、というわけわけです。

もし「情報の非対称性」がなく、企業の良し悪しが投資家にも正確に伝わるのであれば、このようなミスマッチ(逆選択)は生まれないかもしれません。しかし、株には「情報の非対称性」が付き物です。これが、株をめぐる情報の難しさのひとつとなります。

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安心してしちゃって……「モラルハザード」

もうひとつ、モラルハザードという「情報の非対称性」もあります。

ある結果を期待して取引をした結果、反対に、不利益になるような行動を取ってしまうことです。生活に困って友人からお金を借りたのに(取引)、手元にお金が入ったことで安心してしまい、ギャンブルでスって返済できなくなってしまう(不利益)……という状況がピッタリです。

たとえば新規株式公開(IPO)をするとき、経営者は「集めた資金はこのように使います。リターンは年率10%、配当は3%を予定しています」というような説明をします。ところが大量の資金調達に成功したことで慢心して、ライバルに市場を奪われてしまう、というケースなどが考えられます。

宣言したとおりの経営をしてくれるのかどうか、予定した成果を出せるのかどうか——こればかりは、投資家は経営者を信頼するしかありません。このモラルハザードもまた、経営者や企業の状況に関して「情報の非対称性」があるからこそ起こってしまうのです。

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投資家が対策できること

「情報の非対称性」とは、投資家の側面から言えば「判断のための情報が不完全である」と言い換えることができます。まずは、この事実を認識しておくことが欠かせないでしょう。

そのうえで、さらに留意するべき点として以下の2点が挙げられます。

  • 「未来のビジョン」よりも「実績」
  • 「経営者の言葉」よりも「数字」

「未来」の前に「過去」を見る

企業を判断する際には、「将来これくらいの業績を出します」という未来に向けたビジョンよりも、まずは過去の実績を確認することが大切です。なぜなら、「企業の稼ぐ力は、それほど急激に変わるものではない」という現実があるからです。

赤字体質の企業が途端に利益を出せるようになる可能性よりも、利益体質の企業がこれからも利益を出し続ける可能性のほうが高い、ということです。日産自動車やパナソニックのように苦しみからV字回復したケースもありますが、それはとても珍しいケースです。

もちろん、将来の経営計画などを確認することも重要ですが、過去への理解が土台にあれば、よりよい判断をできる可能性が高くなります。

情報は「言葉」よりも「数字」

そして、「言葉」よりも「数字」で情報を見ることで、具体性と客観性を保つことができます。「市場で他社よりも優位性を築くことができた」「認知イメージが向上した」よりも、「シェア60%を達成」「ブランド認知度70%」のほうが、よりよい企業理解につながります。

投資の神様ウォーレン・バフェットも、企業を調べる際には、過去10年分ほどの財務諸表を調べると言われます。

「目利き力」を養おう

上場企業だけでも3000社以上あり、その中から優良銘柄を選ぶのは大変です。苦労して探して「これだ!」と思った企業でも、その実力を判断することは外部からしかできません。

しかし、「何が難しいのか」を理解していれば、「どうすれば判断ミスを減らせるのか」の対策を立てられるようにもなります。「情報の非対称性」は判断を難しくさせますが、過去と数字を見る目を養えば、企業を見極める「目利き力」がおのずとついてくるでしょう。

投資家には内部情報はわかりませんが(わかって取引することは違法です!)、企業は業績以外にも経営計画や財務戦略など様々なシグナルを発しています。投資家に魅力的すぎる条件も、魅力がなさすぎる条件も、「なぜそうなのか?」を探れば新たな発見があるかもしれません。

[執筆者]小田 静
小田 静
[おだ・せい]「バリュー株大好き」な個人投資家。高校卒業後は一般企業に就職するも、ビジネスに目覚めて退職。商学系の大学に進学する。とある投資家との出会いから投資を学ぶうちに株式投資のとりこに。現在は、ひたすら経済ニュースを追いかけて、銘柄分析をすることが生きがい。
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