抽選・公募割れ・初物好き… 今こそIPO株投資の基本を知るチャンス

石井僚一
2024年6月10日 13時00分

IPOなら誰でも儲けられる──かつてはそんな時代もありました。しかし現在は、新興市場の低迷を背景に、IPO株投資で継続的に利益を上げるには、通常の株式投資と同様に事前の下調べなどが欠かせない状況になっています。

それは、株式投資の基本に立ち戻る機会、とも言えるでしょう。IPO市場がいまひとつ盛り上がりきっていないこのタイミングで、改めてIPO株投資の基本を振り返ってみましょう。

IPO株投資とは

最初に「IPOとは何か」を整理しておきます。株式市場で取引されている株式は上場株式と呼ばれ、企業が株式市場(証券取引所)に株式を上場することで、その企業の株式は自由な取引が可能になります。

そして、株式を株式市場に上場することをIPO(Initial Public Offering。日本語では「新規株式公開」)と呼び、株式上場=IPOする直前のタイミングで投資を行うのが、IPO株投資です。

IPO株は大きく値上がりすることが多い株式です。そのため、上場後に株式市場で初めての株価(=初値)が付いたところで売却するのが、王道的な売却タイミングです。ただし、その後に株価の上昇が続く銘柄もあるため、継続保有でより大きな利益が得られる可能性もあります。

IPO株投資を行うには抽選に当たる必要がある

すでに上場されている株式の場合、取引時間中に買い注文を入れれば、株式を取得できます。しかしIPO株投資の対象となる株式は、この時点ではまだ株式市場に上場されていません。このため、上場の手続きを行う証券会社から取得する必要があります。

株式上場に際して、主導的な役割を担うのが主幹事証券会社です。主幹事証券会社は、多数のIPO株式を投資家に売りさばく必要があります。さらに、その他の証券会社も幹事団の一員として上場に関与するケースも多く、主幹事以外の証券会社もIPO株式を販売します。

したがって、IPO株投資を行うには、この主幹事証券会社などからIPO株式を入手することになります。

証券会社には合法的な顧客獲得という重要な役割があることから、大口顧客などを中心に割り当てがされます。ただ、ネット証券など、IPO株式の割当の一部もしくは全部を抽選で行う場合もあり、一般の個人投資家でも、そうした証券会社の抽選に応募して当選すればIPO株式の取得が可能なのです。

IPO株式取得時の注意点

証券会社からIPO株式を取得するときの価格は、主幹事証券会社が設定する公開価格(公募価格や売出価格)です。その後、IPO株式が上場したとき、初値がこの公開価格よりも上回っていれば、その時点で利益になります。

かつては上場したIPO株式の大半が、公開価格を上回る初値をつけていました。しかしながら近年は、初値が公開価格を下回る公募割れも多く発生しており、取得さえすれば(=当選すれば)ほぼ必ず儲かる、という状態ではありません。

そこで、IPO株投資でも、通常の株式投資と同様に銘柄選別が必要になっています。IPO株投資において銘柄を見る際の注意点としては、次のような点があげられます。

  • 初物は高いパフォーマンスとなる可能性がある
  • IPO市場のテーマに合致した銘柄も高いパフォーマンスとなる
  • ファンド子会社の銘柄は厳しい結果となりがち

・初物は高いパフォーマンスとなる可能性がある

昔からIPO市場には〝初物〟を好む傾向があります。インターネット、IT、バイオ、AI、宇宙など、その時代を象徴する分野における初のIPO銘柄は、初値が大きく上昇するケースが非常に多いです。近年ではAI銘柄やVTuber銘柄、宇宙銘柄が該当します。

・IPO市場のテーマに合致した銘柄も高いパフォーマンスとなる

IPO市場は時代に応じて旬のテーマを変えながら、現在に至っています。近年はAI、DX、宇宙がIPO市場のテーマです。これらIPO市場のテーマとなっている分野・業種に該当する銘柄は、IPO株投資で比較的利益を上げやすいといえるでしょう。

IPOで話題となるテーマは、時代により、息長く続くこともあります。ただし、時間の経過や銘柄数の増加とともに、パフォーマンスは低下する傾向にあります。

・ファンド子会社のIPO銘柄は厳しい結果となりがち

IPOは、企業が今後の成長に向けた資金調達を行うために実施されることが大半ですが、なかには、創業者などが保有する株式を株式市場に売却する「売出」のみで、企業の資金調達である「公募」を伴わないIPOもあります。

特にファンドが大株主となっている場合は、ファンドの保有株式の売出のみで、公募を行わないケースがほとんどです。このようなファンド子会社のIPO銘柄は、初値が公開価格(売出価格)を下回る「公募割れ」になる可能性がありあます。

IPO株投資に不可欠な東証グロース指数

IPOの価格は、新興市場である東証グロース市場の動向に大きく左右されます。そこで、IPO株投資をする際には、東証グロース市場に上場する株式で構成される東証グロース指数を確認することが必要不可欠です。

東証グロース指数が良好なときは、IPO株式に当選して初値で売却すれば、ほとんどの場合で利益が出ます。一方、東証グロース指数が下落しているときは、優良なIPO銘柄であってもパフォーマンスはいまひとつとなります。

2022年1月の急落以来、新興市場は低迷を余儀なくされています。一時的な上昇を見せるタイミングもありましたが、2024年5月には2022年6月の安値を一時下回る場面もありました。

現状では、IPO株投資には厳しい状況が継続中と言わざるを得ません。東証グロース指数の動向から相場状況を判断すれば、無理にIPO銘柄に手を出して公募割れ銘柄をつかむリスクは避けられます。確かに東証グロース指数は長期低迷が続いていますが、相場格言にもあるように、「待つも相場」なのです。

優良銘柄なら売らない選択肢も

IPO株投資は、初値が付いたら売却するのがひとつのセオリーです。しかし、現在のように新興市場が低迷している状況では、業績良好な企業であっても、あえて低い公開株価でIPOを行うケースもあります。

そのような場合、IPO後の初値が多少高くなった程度であれば、企業本来の実力から見て、株価は依然としては割安な可能性があります。そうであれば、ここは長期投資と割り切って、初値が付いた後も継続して保有することで、より高いパフォーマンスを狙う選択肢もあります。

とはいえ、株価がジリ安となる可能性もあります。ただ、もし良好な業績が続き、数年後に東証スタンダード市場などへの市場変更が行われるなどすれば、中長期的に高いパフォーマンスが期待できます。

現在、東証グロース市場の銘柄は、内容のよい銘柄も悪い銘柄も、十把一絡げで低評価となっている面が否定できません。そのためIPO株投資であっても、銘柄によってはIPO後の継続保有も選択肢としては「あり」といえるでしょう。

低迷中の今こそチャンス

当選すれば誰でも儲かる、と一時はいわれたIPO株ですが、新興市場の低迷とともに投資家の興味も薄れ、現在は話題に上ることも少なくなりました。

そんな中でも、企業によるIPOは毎月コンスタントに行われており、次々と新しい上場株式が株式市場に誕生しています。決して、IPO株投資を行う機会がなくなったわけではありませんし、これらの中に、未来の大出世株がないとも限りません。

ただし、かつてのような誰でも儲けられる時代は終わっていることも、しっかりと認識しておく必要があります。そのため、IPO株投資でコンスタントに利益を得るには一定の経験や知識も必要です。

そう考えれば、新興市場が低迷している今は、格好のチャンスとも言えます。今後の東証グロース市場の回復を待っている間に、IPO株投資の知識を養ってみてはいかがでしょうか。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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