AIと夜間取引で大きく変わった相場で個人投資家がやるべきは、予想が外れても損をしないこと

伊藤智洋
2022年8月25日 10時30分

Alonso Reyes/Adobe Stock

《テクニカル分析で勝ち続けるには、結局のところ何が必要なのか? 20年以上にわたって値動きと向き合い続けるテクニカルアナリストが、その本質について考え直す【テクニカル分析・再考】》

トレンド追随型指標では勝てない

テクニカル指標のなかでオシレーター系の指標は、もはや「使い物にならなくなった」と前回の記事で書きました。大きな理由は、AIによる高速取引の増加です。でも、トレンド追随型の指標なら一定の流れに乗る手法として使えるのではないか、と考えたくなるところですが……。

前回の記事で、1営業日あたりの変動幅(高値−安値)の変化について触れました。日経平均先物期近の場合、500円幅以上になった日数が、2007年は9日だったのに対して、2021年は100日もありました。

また、225先物ミニ期近の1営業日あたり変動幅の年間平均値は、2007年は221円幅でしたが、2021年では494円幅となっています。それに対して、年間の最高値から最安値までの値幅は、2007年が3680円幅であるのに対して、2021年は3860円幅です。

つまり、年間の値動きの値幅はほとんど変わっていない状態で、1営業日の変動幅が倍以上になっているわけです。年間(245営業日)の全体の変動幅の8分の1の値動きが、1営業日であらわれていることになります。

そのため、一定の流れができたことを判断して仕掛けるトレンド追随型指標では、十分に上昇してしまってから買いのサイン、十分に下げてから売りのサイン、となりやすいのです。

そもそも、値位置にかかわらず、いずれ上昇すると予想して長期で保有するつもりで買うなら、もともとテクニカル指標を使う意味はありません。

予想が外れても損も出さない

テクニカル指標の示す売買サインは、古いデータをひっくり返して、単純な計算から導き出した答えです。その時点におけるすべてを瞬時に把握して、最良の選択をするAIと対決するのですから、もともと勝てるわけがありません。

機関投資家などと比べて少額の資金しかもたない個人投資家が、短い期間の取引で勝つためには、1秒でも先を読んだ取引の仕方へ変わってゆく必要があります。

これまでは「こうなるはずだから仕掛ける」という判断がありましたが、現在は、「その動きが現れる前に仕掛けて、想定のとおりなら持玉を維持して、想定のとおりにならなければやめる」という判断の仕方に変えてゆくということです。

ただし、未来のことなどわかるわけがないのですから、勝率を高めようとしても無駄です。むしろ、自分の考えはすべて注文を出したときにさらけ出されて、AIに叩きのめされる、と考えておいたほうが妥当です。

そこで大切になるのは、勝率を高めるのではなく、取引回数が増えても損を出さない取引に変えてゆくことです。証拠金が10万円として、1回の取引で5000円の損を許容したら、10回の取引で損が出た時点で、証拠金の半分を失ってしまいます。

そうならないように、たとえ自分が考えていた展開にならなくても、なるべく1円の損も出さないやり方を考えて、それを実行してゆくことが重要です。

自分を信じるから迷いが生じる

「予想のとおりにならなくても損が出ない取引」と書くと難しそうに感じるかもしれませんが、実は、利益を出すことが難しいのであって、損を出さないことはそれほど難しい作業ではありません。

1000円の価格が2000円になることを想定して、2000円近くなったら利食いを入れる取引を考えたとします。予想のとおり1000円から2000円になったとしても、その過程はさまざまです。1000円で仕掛けた後、1000円を割らずに2000円に接近する展開なら、1000円近い値幅を利益にできます。

しかし実際には、1100円まで上がった後で1000円以下へ下げる、1500円まで上がった後で1000円以下へ下げるなど、1000円で仕掛けてから2000円に接近するまでの間、たいていの場合、何度でも1000円を割る動きがあらわれます。

特定の値位置でストップ・ロス(逆指し値注文)を入れていれば、大体それに引っかかってしまい、その後に価格が上昇したとしても、その取引での損は確定します。でも、それ以上の損をすることはありません。

ストップ・ロスを入れずに自分で判断する場合、利食い目標に対しては、事前の十分な準備による予想があるわけですから、意志を貫くことができます。

一方、損失に対しては、完全に予測が外れたと判断するに至るまで、じわじわと、何度でも心を揺さぶられ続け、結果、多少の損を許容して手じまいしてしまうことがほとんどです。自分の予測を信じるからこそ、迷いと判断ミスが出て、結果として、予測のとおりになっても損になってしまうのです。

自分の予測や値位置に対する期待感を捨てて、「損を出さない」ということを最重要課題とすれば、余計な判断ミスを出さず、ほとんど損を出さない取引を実行できる可能性があります。そのためには、まず、戦う相手を徹底的に知り尽くす必要があります。

数時間先の未来が読みやすくなった

現在は、取引時間が長くなったことで終値の意味が薄れましたが(詳しくは前々回の記事を参照してください)、一方で、他の市場とのつながりが強くなったため、他の市場の状況と合わせることで流れが読みやすくなっています。

以前の場合、チャートは点と点をつなぐ線でしたが、現在は、時間の経過に沿ったラインになっています。取引経験の浅い方はよくわからないかもしれませんが、10年以上、日々の値動きを見ている方ならピンとくると思います。

とはいえ、イメージばかりを書いても参考にならないので、流れを読むためのあるポイントを書いて終わりたいと思います。

日経平均株価は、東証に上場している約225銘柄を使って算出しています。ダウ平均株価は、ニューヨーク証券取引所とNASDAQに上場している30銘柄を使って算出しています。採用銘柄の株価が上昇・下降することで、指数の位置が変化します。指数が動くには、現物が動く必要があるわけです。

日経平均株価のその時々の本当の強さ・弱さや方向性は、日中の現物が動くことによってあらわれると考えられます。その意味で、225先物の夜間取引の値動きは「架空のもの」だと考えておくことができます。同じことは、ダウ平均株価にも言えます。

ダウと日経は正の相関の強い期間が多いので、たいていの場合、ダウが下げると夜間の225先物も下げることになります。この225先物の夜間の動きは、日経の実態を反映していないので、翌日の日中、現物の取引量の多い時間帯に、実際の状況を知ることができます。ダウにも同じことが考えられます。

たとえば、夜間にダウが下げる過程で225先物も大幅安となった場合、翌日の日経は寄り付き後すぐに下値の目安にまで到達すると推測できます。しかし、さらに下値を掘り下げていいのかどうかがわからない値位置まで下げてしまったら、その後の日中は下値堅く推移する可能性が出てきます。

そして、実際に日経が下値の目安となる場所で止まり、堅調に推移する動きとなれば、その晩のダウは上昇して始まる、という流れを事前に推測することができるのです。

正の相関の強い2つの市場が、指数先物によって、ほとんど隙間なく取引されているのですから、それぞれの市場の状況や値位置を考えれば、「日経がこうなれば、ダウがこうなる」というように、先の先を次々と推測してゆくことができます。

もちろん、必ずそのとおりに推移するとは限りませんから、自分の予想が外れても損を出さないやり方をとることは、やはり重要です。

[執筆者]伊藤智洋
[いとう・としひろ]証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービスを設立。20年以上、毎日の値動きを見続け、相場予測についての記事を執筆。『株価チャートの実戦心理学』『ローソク足チャート 究極の読み方・使い方』『テクニカル指標の読み方・使い方』『勝ち続ける投資家になるための株価予測の技術』など著書多数。現在は、自身が運営する「パワー・トレンド」でも、先物市場や仮想通貨などの情報を動画等で配信中。
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