年末年始におすすめ! 投資家ならやっぱり観ておきたい映画5選

岡田禎子
2017年12月19日 12時30分

株や投資をテーマにした映画は、「勉強になるから」と勧められて観たものの「よくわからなかった……」という人が多いのも事実です。そこで今回は、「ここさえ理解できればもっと深くストーリーを楽しめる」というポイントを絞って解説します。

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

2008年に起きたリーマンショック以降、金融危機を題材にした映画が多く作られました。その中でも本作は、投資家として観てもずば抜けて楽しめる映画ではないでしょうか。コメディ映画で知られるアダム・マッケイ監督の手により、実話でありながら、ポップでユーモラスな仕上がりになっています。

「ウォール街は業界用語で人を煙に巻く」——このセリフどおり、本作は難しい経済用語が飛び交うため、「いまひとつ意味がわからなかった」という声もよく訊きます。

そこで、主軸のストーリーである「元医師でヘッジファンドのトレーダーであるマイケルは、何に気づき、どのようにしてウォール街に大勝負を挑んだのか?」に焦点を絞り、同時に、キーとなる経済用語を解説しましょう。

【解説1】

2004年頃、アメリカは住宅による好景気に沸いていた。住宅価格は上昇し続け、住宅ローンを基にした金融商品は、株や貯金に変わる安全確実な投資商品として人気があった。

しかし、元医師でヘッジファンドのトレーダーであるマイケルは、膨大な量の住宅ローンを組み合わせた金融商品である「MBS」や「CDO」の実態を調べるうちに、それらは返済不能に陥る可能性の高い「サブプライムローン」を多く含んだデタラメな商品だと気がつく。

サブプライムローン……返済能力の低い、低所得者向けの住宅ローン。そのほとんどが2年の固定の釣り金利付きで、2年後には金利が跳ね上がり、債務不履行に陥る可能性の高いハイリスクなローンだった。

MBSモーゲージ債)……住宅ローンを複数束ねて証券化した金融商品で、投資家は、住宅ローンの借り手が銀行に返済した元金と利子を受け取ることができる。束ねられた住宅ローンの中には、債務不履行に陥る可能性の高いハイリスクなサブプライムローンが多く含まれていたが、投資銀行や格付け会社はトリプルAの高格付けで投資家に販売した。

CDO債務担保証券)……本来は、債券や住宅ローンなど、様々な種類の金銭債権を束ねた商品。本映画では、投資銀行はMBSを分解し、Bランクの売れ残り分をパッケージし直し、格付け会社にトリプルAに格付けさせて販売していた。

【解説2】

マイケルはサブプラムローンがいずれ住宅市場を崩壊させる時限爆弾だと気づき、「MBSを空売りしよう。それも、いましかない」と思いつく。

ただ、アイデアはあっても、MBSやCDOは価格が下落するほうに賭ける(空売りする)ことができない。そこでマイケルは「CDS」を自ら作り、大手投資銀行相手に提案。大量にCDSを買い、住宅市場の破綻に賭ける。

 CDSクレジット・デフォルト・スワップ取引)……MBSやCDOの「保険」とも言える商品。月々「保険料」を支払う代わりに、サブプライムローンが組み込まれたMBSやCDOに損失が出た際に、損失に見合う金額を受け取る権利を持つ(買う)という取引。この取引では、損失は保険料に限定され、収益の上限は何倍にも膨らむ。いわば、「他人の家の火災保険をかけて、家が燃えるのを願うような保険」(原作より)ということ。

【解説3】

マイケルの予想どおり、サブプライムローンは焦げ付きだすが、MBSやCDOの債券自体の価格が下がらない。格付け会社も格付けを下げない。それどころか、債券の価格は上昇し、追加の保証料を求められる。

一方で、マイケルの作ったCDS市場は瞬く間に巨大化し、CDSを使った「合成CDO」なる商品も登場、市場規模は膨れ上がっていく。

マイケルの行なった賭け(取引)は、次のようなもの。

  • 住宅市場の好景気が続いた場合……マイケルは、月々莫大なCDSの保険料を投資銀行に払い続け、MBSやCDOの債券価格が上昇(CDS価格は下落)すれば追加の保険料を請求される。
  •  住宅市場がサブプライムローンの債務不履行によりバブル崩壊した場合……債券はデフォルトし(CDS価格は上昇)、マイケルに巨額の利益が入る

【解説4】

ついにサブプライムショックは起こり、住宅市場は破綻する。マイケルはCDSを売却して、巨額の利益を手にする。

マイケルは顧客の金を凍結してまで、この大勝負に賭けます。顧客との軋轢も生まれ、その苦悩は計り知れないものだったはずです。

しかし、「最終的には論理が市場を律する」(原作より)と信じていたマイケルは、じっと耐えて時を待ちます。この「信じて待つ」という意思の強さこそ、マイケルが賭けに勝った最大の要因だったのではないでしょうか。

同じリーマンショックを扱った次の2本も同時に観ると、投資の知識だけでなく経験値もさらにアップするかもしれません。

「マージン・コール」

こちらは投資銀行サイドからリーマンショックを描いた作品。実際に破綻した米投資銀行リーマン・ブラザーズがモデルです。映画では、銀行が生き延びるためにある「投資判断」を行い、現実とは違う展開となっています。

「インサイド・ジョブ  世界不況の知られざる真実」

経済ドキュメンタリー映画。投資銀行や格付け会社、政権、学界などの、リーマンショック当時の当事者たちに監督自らインタビューを行い、「金融危機の引き金となった証券化商品を、破綻のリスクがあると知りつつ開発し販売していたのではないか?」を追及し、真相を暴いていきます。

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

ストラトン証券詐欺」として有名な投資詐欺事件を起こした、ジョーダン・ベルフォード率いる証券会社のストラトン・オークモント社がモデルの映画。同社は約2億ドル以上の損害を投資家にもたらして、1997年に破綻しました。

この映画のポイントとなるのは、同社が行なった「pump-and-dump(偽情報)」という証券詐欺スキームです。

  • pump-and-dump偽情報)……ストラトン社が大量に保有しているA株を、同社の顧客に、偽情報を煽るなどして多額の資金で投資させ、株価を吊り上げる。その後、A株が急騰したところで手持ち分を売り抜け、同社だけが不当に多額の利益を手にする。

裏付けのない情報で急騰した銘柄は急落するのが世の常で、高値掴みをさせられた投資家は多額の損害を被ります。映画では、靴ブランドのスティーブン・マデン<SHOO>のIPO上場で、このスキームを見ることができます。

悪質な詐欺行為で投資家に損害を与えたベルフォードですが、3年間の服役後は、映画の成功もあり、講演などで大活躍しています。投資家からすれば実に理不尽な話で、おいしい投資話に安易に乗るとカモにされるだけ、と肝に銘じる必要があります。

ちなみに、映画に出てきたスティーブン・マデン株はNY発の靴ブランドとして現在も高い人気を誇り、ナスダックに上場しています。

「セッション」

偉大なドラマーになることに憧れる青年ニーマンが、鬼教師フレッチャーと出会うことで音楽家として成長していく物語。「株の話なんて出てこない」と思うかもしれませんが、音楽に対するニーマンの姿勢は、株式投資に通じるものがあります。

ニーマンはフレッチャーに狂気ともいえるしごきを受けながらも決して道を諦めず、自分にしかできないやり方で自分の音楽を見つけます。株式投資も、暴落が起こったり、悪質な投資話を持ちかけられたりと、様々な困難が常につきまといます。しかし、その都度冷静に判断し、人マネではなく自分のやり方を見つけ、淡々と続けていくことこそが成功への道なのではないでしょうか。

<ご紹介した5本は、エンターテインメントとしても見応えのある映画ばかりです。また、「マネー・ショート」や「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、原作も大変興味深い内容ですので、ぜひ参考にして、あなたの今後の投資活動の糧にしてください>

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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