もしも株価をコントロールできたなら!? 相場操縦の実例3選

長嶺超輝
2018年7月30日 11時34分

「上がれ!」と念じればチャートがドンドン上へ伸びていく超能力、ほしいですよね。思い通りに相場を動かせたら、どんなに素晴らしいかと考えたことはありませんか?

お気持ちはわかりますが、心の中だけに留めておきましょう。

もしも実行に移せば、金融商品取引法159条に違反する「相場操縦」という犯罪となり、最高で懲役5年と罰金500万円の両方が科される可能性があります。

【参考記事】相場操縦をざっくり解説 ネット取引が思いがけず犯罪につながる理由とは?

「行政罰」を甘く見てはいけない

ただ、実際に司法の場で裁かれて刑罰を科されるのは、非常に悪質な相場操縦のみです。ほとんどの違反者は、証券等監視委員会から「課徴金」の納付を命じられます。

課徴金納付命令は「行政罰」なので、懲役や罰金のように前科・前歴としてカウントされることはありません。

しかし、証券取引等監視委員会の強制調査によって、相場操縦の事実が会社に知られれば、懲戒解雇処分を受けるリスクを伴います。ただ単に「お金を納めれば終わり」では済まない影響も十分にありうるのです。

では、具体的にどのような相場操縦が暗躍し、どれくらいの額の課徴金が科されているのでしょうか。2014~2016年の3年間に発覚した相場操縦の事例を具体的にご紹介します。

実例・「見せ玉」で相場をコントロール

手口のおさらい

今回は、相場操縦の手口の中でもインターネット取引によって個人でも簡単にできるようになってしまった「見せ玉」の事例を紹介します。

【見せ玉とは?】

初めから取引を約定させるつもりがないのに、板の上に大きな注文を出しては、約定しそうになると取り消すといったことを繰り返して、他の投資家に注目させ、特定の銘柄の株価を誘導しようとする行為を「見せ玉」と言います。

インターネット注文の発達により、近年では、個人投資家でも簡単に「見せ玉」ができるようになっています。相場操縦をしようという意図はなかったとしても、いくら手軽に発注をキャンセルできるからといって、むやみに繰り返すのは禁物です。

【参考記事】自分で売って自分で買うのは犯罪? 株価を操る魅惑の手口を解説

相場操縦No. 1 〔プロのディーラー経歴を持つ男〕

 • 誰が?……ネット口座3つを保有している個人投資家

 • どんな操縦?……他の投資家から見て、相場が繁盛に行われているかのように見せかける目的で、信用取引によって株式を高値で売りつけ、上値(現在の価格以上の価格帯)での売り注文を大量に入れる「見せ玉」を行った。

売り板を厚くすることで、他の投資家の売りを誘導して人為的に株価を引き下げ、その後、安値で買い戻すことによって信用取引の決済を行った後、見せ玉の売り注文をすべて取り消した。

 • どれくらいの売買差益に?……1株あたり1~20円

→ 課徴金:121万円

*真似をしないためのメモ

違反者は会社役員で、元 証券会社ディーラーという経歴の持ち主でした。つまり、相場操縦の違法性についても十分に認識していたはずです。しかも、証券会社から再三にわたって注意喚起されていたにもかかわらず、相場操縦を止めようとしませんでした。これらの点でも悪質性は高いといえるでしょう。

相場操縦No. 2 〔ダブル見せ玉〕

 • 誰が?……ネット口座を保有している個人投資家

 • どんな操縦?……他の投資家から見て、相場が繁盛に行われているかのように見せかける目的で、信用取引によって株式を高値で売りつけ、上値(現在の株価以上の価格帯)での売り注文を大量に入れたり、株価を引き上げる目的で下値(現在の株価以下の価格帯)での買い注文を大量に入れたりした。

株価の値動きに合わせて売り板や買い板を厚くし、他の投資家の売りや買いを誘導して人為的に株価を操作。その後、安値で買い戻すことによって信用取引の決済を行った後、見せ玉の売り注文をすべて取り消した。

 • どれくらいの売買差益に?……1株あたり1~23円

→ 課徴金:414万円

*真似をしないためのメモ

信用取引との組み合わせで「売り見せ玉」と「買い見せ玉」を交互に使って、値動きの往復で利益をかすめ取っていく手口です。そのぶん、相場操縦の時間効率が良く、大量の売買を繰り返していたことから、悪質性が自ずと高まっていきました。

相場操縦No. 3 〔見せ玉の「再犯」〕

 • 誰が?……ネット口座を保有している個人投資家

 • どんな操縦?……他の投資家から見て、相場が繁盛に行われているかのように見せかける目的で、大口の下値買い注文を入れる見せ玉を繰り返すことによって、大きな利益を出した。

しかも、大量の買い注文のうち、一部をあえて約定させることによって、正当な取引であると偽装する工作を加えており、巧妙な手口であった。

2つの銘柄について、最高で73%の板占拠率を記録するほど、寂れた相場に対して極端に偏った注文を出し、強いコントロールを実行したことになる。

 • どれくらいの売買差益に?……ある銘柄については、8営業日を1サイクルとして2回繰り返され、それぞれ、1,124円→1,220円、859円→1,137円と、株価を人為的に上昇させた。

→ 課徴金:255万円→382万5,000円

*真似をしないためのメモ

この違反者は、過去にも見せ玉で課徴金納付命令を受けており、しばらく反省して見せ玉からは足を洗って株式投資を続けていました。しかし、正攻法ではなかなか利益が出せなかったために、再び大がかりな見せ玉を仕掛けたのです。

違反行為の時点から過去5年以内に課徴金納付命令を受けた者に対しては、新たな課徴金を通常の1.5倍に加算することができます。今回はその「再犯加重」規定が適用され、課徴金が増額となったのです。


ここで紹介した手口は、ちょっとその気になれば誰でもできてしまいます。それが「相場操縦」だという認識なく、似たような行為をした人もいるかもしれません。

なかなか勝てない日々が続くと、誘惑の声も大きくなってしまうものですが、それで多額の課徴金を科されたり、前科者になってしまっては元も子もありません。

それよりも、自分の売買ルールをしっかりと構築し、着実に利益を重ねられる方法を見つけるべきでしょう。

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[執筆者]長嶺超輝
長嶺超輝
[ながみね・まさき]法律・裁判ライター。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)のほか著書多数。
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