「勝てる銘柄」はどこにあるのか。ビジネスの魅力度を判断するフレームワークで「業界」を知る(1)

朋川雅紀
2022年7月19日 14時30分

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ビジネスの魅力度を判断するフレームワーク

株式投資で企業(銘柄)を選ぶうえで、その銘柄が属する「業界」の収益環境を知ることはとても重要です。

そうは言っても、いきなり収益環境を判断することはむずかしいのも事実です。そこで今回は、あるフレームワークを紹介したいと思います。それは、経営学者のマイケル・E・ポーター氏が提唱した「5つの競争要因分析(5フォース分析)」です。

これは、産業あるいは企業を取り巻く業界環境を分析する際に使われるフレームワークで、「新規参入」「敵対関係」「代替品」「買い手の価格交渉力」「供給業者の価格交渉力」という5つの視点で業界環境を分析します。

(1)新規参入

新規参入が容易であれば、その業界の収益性は脅かされることになります。つまり、限られたパイを多くの市場参加者と分け合わなければならないからです。それだけ、個々の企業の取り分が少なくなります。

新規参入の脅威の大きさは「参入障壁」の高さで決定されます。以下のポイントをチェックすれば、参入障壁の高さがわかります。

・規模の経済性

「規模の経済性」とは、生産1単位当たりの費用、つまり、平均費用が生産量の拡大とともに低下していく効果を指します。これが発揮されている業界は、新規の参入を躊躇させるはずです。新規参入者が高い生産量(売上)をすぐに実現するのは簡単でないからです。

参入時の投資

参入時に巨額の投資が必要であれば、新規参入者を躊躇させるはずです。失敗したときの代償が大きくなるからです。例えば、自動車メーカーや鉄鋼メーカーなどは、巨額の設備投資を必要とします。

・変更コスト(スイッチング・コスト)

既存の会社の製品から別の新しい会社の製品に切り替えるとき、その切り替えコストが大きければ、顧客は簡単には新しい会社の製品には切り替えてはくれません。例えば、既存のコンピューター・システムや通信システムなどを切り替えるコストは巨大なものになります。

販売チャンネル

新規参入者の提供する製品やサービスが優れていたとしても、それを販売する経路が確保されていなければ、売ることができません。

例えば、小売店が既存の商品しか取り扱わなくて、競合他社の商品を取り扱わないとしたら、新規参入者は独自の販売ルートを構築しなければならなくなることから、新規参入を躊躇することになるでしょう。

(2)敵対関係

競合同士が激しく対立する業界では、企業は超過利潤を得ることが難しくなり、業界の収益性は低下します。以下のポイントをチェックすれば、企業の対立関係がわかります。

同業者の規模と数

同業者の規模が同程度であれば、また、数が多ければ、競争が激しくなります。一方、独占企業が存在すれば、その業界での競争はまったくありません。

業界の成長率

業界の成長率が低ければ、マーケット・シェアを取ろうと競争が激しくなります。業界の成長率が高ければ、争ってマーケット・シェアを取る必要がないので、競争は激しくなりません。

固定費

固定費が高い場合、1数量当たりの支出を低下させるために、価格を引き下げてでも数量を増やそうとするため、競争が激しくなります。

・撤退障壁

労働組合が強かったり、ほかの用途に転用できない特殊な設備を持っていた場合は、赤字であっても簡単に撤退できません。例えば、特殊化学工場のように、ほかの用途に転用できない特殊な設備を持っていた場合、その設備を排除して用地を転売するためには多額のコストがかかります。

やめるにやめられない会社が存在するため、適切な数以上の参加者が存在することになり、競争が激しくなります。 

(3)代替品

買い手のニーズを満たす別の製品やサービス、つまり、代替品の登場は企業にとっては脅威となります。

代替品のコスト・パフォーマンスがよい場合、代替品の成長によって現在の業界の潜在利益が縮小されるときなどには脅威が大きいといえます。例えば、ビンの代替品は缶ですし、鉄の代替品はアルミとなります。                 

(4)買い手(顧客)の価格交渉力

顧客の価格交渉力は企業の収益力に大きな影響を与えます。

例えば、自動車会社にとって、レンタカー会社の価格交渉力は個人の価格交渉力よりも強いと言えます。レンタカー会社は、大量に自動車を購入するため、自動車会社に値引きを迫るでしょう。

顧客の数が多ければ多いほど、また、顧客の買う数量が小さければ小さいほど、顧客の価格交渉力は弱くなります。

商品やサービスが規格化(標準化・定型化)されていれば、顧客は簡単にほかの会社の商品やサービスに乗り換えができるので、顧客の価格交渉力は強くなります。

(5)供給業者(売り手)の価格交渉力

部材や商品の仕入れ先である供給業者(売り手)の脅威も、売り手の交渉力の大きさによって決定されます。

売り手の価格交渉力は企業の収益力に大きな影響を与えます。例えば、自動車会社にとって、自動車部品会社の価格交渉力は弱いと言えます。自動車会社は、大量に部品を購入することを背景に、自動車部品会社に値引きを迫るでしょう。

売り手の数が多ければ多いほど、売り手の価格交渉力は弱くなります。

また、商品やサービスが標準化・定型化されていれば、売り手の価格交渉力は弱くなります。部材や商品の調達を他社に頼らず、自社で直接調達する動きが強まれば、売り手の価格交渉力は弱くなります。

ラーメン屋は儲かるか?

以上が、「5つの競争要因分析」のフレームワークを構成する要素です。次回はこれを使って、ラーメン屋の収益環境について分析してみたいと思います。はたして、ラーメン屋は儲かるビジネスなのでしょうか。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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