「勝てる銘柄」はどこにあるのか。ビジネスの魅力度を判断するフレームワークで「業界」を知る(2)

朋川雅紀
2022年8月3日 16時30分

timolina/Adobe Stock

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ビジネスの魅力度を判断する 

株式投資で銘柄を選ぶ際、その企業がおこなっているビジネスの「魅力度」を知っておくことは重要です。そこで活用できるのが、経営学者のマイケル・E・ポーター氏が提唱した「5つの競争要因分析(5フォース分析)」というフレームワークです。

「新規参入」「敵対関係」「代替品」「買い手の価格交渉力」「供給業者の価格交渉力」という5つの視点で業界環境を分析します。

それぞれの詳しい説明は前回の記事をご覧いただくとして、今回は、このフレームワークを使って、ラーメン業界の収益環境を分析することにします。ここで扱うラーメン屋は、チェーン展開しているような大きな企業ではなく、個人が経営するお店を対象とします。

ラーメン屋は儲かるのか?

それでは、「新規参入」「敵対関係」「代替品」「買い手の価格交渉力」「供給業者の価格交渉力」の5つの視点で、ビジネスとしてのラーメン屋の魅力度を見ていきましょう。

(1)ラーメン業界の参入障壁

通常ラーメン屋は、店舗内でラーメンを提供するため、一日にさばける量は限られています。そのため、新たに参入しようとする人にとって、この業界の規模はあまり重要ではありません。

ラーメン屋を始めるに当たって、新規資金として必要になるのは数百万円程度でしょう。巨額の設備投資は必要ありませんから、参入しやすいと言えます。

顧客の側からすれば、それまで通っていたラーメン屋から別のラーメン屋に乗り換えたとしても、そこには何のコストも発生しません。顧客は自由にラーメン屋を選ぶことができます。つまり、ラーメン業界の変更コスト(スイッチング・コスト)はゼロです。

また、ほとんどのラーメン屋は、店舗を借りるなり購入するなりしてラーメンを提供しますので、新規参入者だけが不利になることはありません。

結論としては、ラーメン業界の参入障壁はとても低いと言えます。巨額の開業資金を必要とせず、物件を見つけることも比較的容易で、新規参入者が既存のラーメン屋に比べて不利になる点はほとんどないからです。

新規参入が容易ということは、限られたパイを多くの競合と分け合わなければならず、個々の取り分は少なくなります。「新規参入」の観点から見ると、ラーメン屋は儲かりにくいと言えます。

(2)ラーメン業界の敵対関係

ラーメン屋の多くは家族経営で、零細企業がほとんどです。そして、日本中にラーメン屋は数え切れないほどたくさんあります。つまり、同じくらいの規模のラーメン屋が相当数あるということです。

その一方で、今後ラーメンの消費量が飛躍的に増えることは考えにくいので、ラーメン業界の成長率は低いと言えるでしょう。

ただ、ラーメン屋の固定費は店舗の購入費や家賃がメインですので、あまり大きいとは言えません。

撤退障壁についても見てみましょう。ラーメン屋をやめることは簡単です。ラーメン屋の店舗をほかの業態に変えるにあたって、何の問題もありません。労働組合もないでしょうから、労働協約の問題もありません。

固定費は大きくなく、撤退障壁もないものの、同じくらいの規模のラーメン屋が相当数あり、業界の成長率は低いので、ラーメン業界の敵対関係は激しいと言えます。

競合同士が激しく対立する業界では、業界の収益性は低下します。「敵対関係」の観点から見ても、ラーメン屋は儲かりにくいと言えそうです。

(3)ラーメンの代替品

ラーメンを麺類と位置付ければ、代替品は、そば、うどん、パスタなどになりますし、ラーメンを中華と位置付ければ、代替品は、和食、洋食、韓国料理などになります。ラーメンを軽食(腹ごしらえ)と位置付ければ、代替品は、お菓子、カップ麺、おむすび、お茶漬けなどになります。

ラーメンの代替品は多くありますが、代替品の成長によって現在のラーメン業界の潜在利益が縮小させられることは考えにくいので、脅威が大きいとは言えません。

つまり、ラーメン屋は「代替品」の影響を受けにくいと言えます。この観点から見ると、ラーメン屋は儲かりやすいとも儲かりにくいとも言えないため、中立の評価とします。

(4)ラーメン屋の顧客の価格交渉力

ラーメン屋の顧客は個人で、その数は多く、また、一人の顧客が食べる量は限られています。この点からは、顧客の価格交渉力は弱いと言えます。

一方で、普通のラーメンであれば、どこも似たようなものなので、特別なラーメンでもないかぎり、顧客は値段に納得できなければ簡単にほかのラーメン屋に行ってしまいます。ですから、顧客の潜在的な価格交渉力は強いと言っていいでしょう。

結論としては、ラーメン屋の顧客の価格交渉力は強いと言えるでしょう。

(5)ラーメン屋への供給業者の価格交渉力

ラーメンの食材は多くありますが、最も重要な麺を取り上げてみましょう。

製麺所の数はラーメン屋の数に比べて少ないものの、製麺所が価格を決定できるほど数が少ないとは考えにくいので、製麺所の顧客であるラーメン屋の価格交渉力は強いと言ってよさそうです。

また、特別な麺でなければ、ラーメン屋は簡単にほかの製麺所に変えることができます。このことからも、ラーメン屋の潜在的な価格交渉力は強いと言えます。

むしろ、麺にこだわるラーメン屋は、自分のところで麺を作っています。こうした動きが強まれば、製麺所の価格交渉力は弱まるでしょう。

ラーメン屋にとって製麺所の価格交渉力は弱い、という結論になります。 

ラーメン屋は儲かりにくい

  「新規参入」「敵対関係」「買い手(顧客)の価格交渉力」の観点から、ラーメン業界の収益環境は厳しいと言えます。ラーメン屋は儲かりにくいビジネスと言えるでしょう。 

【ラーメン屋を5つの競争要因で分析した結果】

競争要因 収益性
新規参入 ×
敵対関係 ×
代替品
買い手(顧客)の価格交渉力 ×
売り手(供給業者)の価格交渉力

このように、「5つの競争要因分析(5フォース分析)」というフレームワークを使うことで、そのビジネスがどれくらい儲かりやすいのか・儲かりにくいのかを判断する手がかりを得ることができます。銘柄選択の際の参考にしてください。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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