つみたてNISAから見えてくる、投資信託とコストの甘くない関係
※本記事は旧制度をもとに作成されています。ご注意ください※
2014年から始まった「NISA」と、今年からスタートした「つみたてNISA」。もう利用していますか? ベテランの投資家ならば自分には必要ないと思っているかもしれませんが、株初心者向けだからこその魅力があるだけでなく、そこから投資のある重要な気づきを得ることもできます。
従来のNISAを比較しながら、つみたてNISAならではの利点と注意点を見ていきましょう。
NISAとの共通点・相違点
NISAとは「少額投資非課税制度」のことで、若い世代など初心者の人が株を始めやすいようにと、一定の金額までを非課税にする制度です。さらに、少額で長期の運用を支援しようということで始まったのが、つみたてNISAです。
【参考記事】これで納得! 5分でわかるNISAのメリット・デメリット
どちらの場合も税金20%がゼロになる
どちらも最大の特徴は、もちろん「運用益が非課税」という点でしょう。運用益とは、株式や投資信託を買ったり売ったりすることで得られる利益です(配当も含む)。要するに、「儲けた分に税金はかかりませんよ」という、なんとも魅力的な制度なのです。
通常、株式や投資信託を運用して得た利益にかかる税金は20.315%です(所得税15.315%+住民税5%)。結構取られるなぁ〜と思った方も多いのではないでしょうか?
ある投資信託を10万円で買って、それが12万円になった時点で売却すると、2万円の利益になります(売却手数料はないものとします)。通常であれば、ここから税金が差し引かれて、手元に残るのは1万5,937円ですが、NISAやつみたてNISAを利用していれば、まるまる2万円が手に入ります。
枠は小さいが期間が長い「つみたてNISA」
ただし、NISAの場合なら年間120万円、つみたてNISAでは年間40万円という非課税投資枠が設けられています。これは、1年間に新規で購入できる金額であって、非課税となる利益の額ではありません。また、途中で売却したとしても、投資枠は増えません。
つみたてNISAでは、NISAの3分の1しか投資枠がないわけですが、その代わり、非課税期間が長いのが特徴です。NISAの5年間に対して、つみたてNISAは20年間。今年つみたてNISAを利用して投資信託を40万円で買えば、そこから得られる利益は今後20年にわたって非課税、ということです。
年間の非課税投資枠と非課税期間をかけた最大非課税金額を比べると、NISAは600万円(年間120万円×5年)ですが、つみたてNISAなら800万円(年間40万円×20年)で200万円も多くなります。
つみたてNISAで買えるのは投資信託のみ
NISAとつみたてNISAでは、投資の手法とその対象も大きく異なっています。NISAの場合、自分の好きなように株式や投資信託を買うことができますが、つみたてNISAは、その名のとおり積立のみ。
そして、NISAでは、国内外の上場株式と、ほとんどの投資信託(ETF、リート含む)が対象ですが、つみたてNISAを利用して買うことができるのは「一定の条件を満たした投資信託」のみ。つまり、個別の株式を買うことはできません。
言い換えると、NISAでは、非課税となる投資枠や期間こそ制限がありますが、それ以外は自由に運用することができます。長期保有するもよし、短期トレードをやってみるもよし。自分が好きな会社の株を好きなときに買うことができますし、なかには積立のできる投資信託もあります。
一方、つみたてNISAなら、投資枠が小さいことが、かえって気軽に始められるポイントかもしれません(買いすぎる心配がない)。また、投資対象が限られているので悩む幅も少なく選びやすいでしょうし、さらに、積立なら「買いのタイミング」を気にする必要もありません。
【参考記事】株式 vs. 投資信託——集中か分散か、バフェットかグレアムか。あなたに向いているのは、どっち?
つみたてNISAならではの魅力
金融庁のサイトによると、つみたてNISAは「特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度」です。そのため対象商品は、手数料が低水準で、頻繁に分配金が支払われないなど、長期・積立・分散投資に適した投資信託に限定されています。
具体的には、以下の要件をすべてクリアした投資信託(ファンド)のみが対象です(ETFはこれに該当しません)。
【つみたてNISA対象商品の要件(公募株式投資信託の場合)】
- 販売手数料はゼロ(ノーロード)
- 信託報酬は一定水準以下(例:国内株のインデックス投信の場合5%以下)に限定
- 顧客一人ひとりに対して、その顧客が過去1年間に負担した信託報酬の概算金額を通知すること
- 信託契約期間が無期限または20年以上であること
- 分配頻度が毎月でないこと
- ヘッジ目的の場合等を除き、デリバティブ取引による運用を行っていないこと
手数料がほとんどかからない
要件にある「販売手数料」とは、ファンド購入時にかかる手数料です。通常1〜3%で、最近は1%以下のものも増えていますが、つみたてNISAの対象商品はすべて0%(ノーロード)。
たとえば、20万円で投資信託を購入しようと思った場合、販売手数料が3%のファンドでは、19万4,000円分しか買うことができません。ノーロードで20万円分を買える場合と比べると、「スタート地点でまず損をしている」わけです。
「信託報酬」はファンドを運用するための費用で、保有している間ずっとかかります。年率で0.1〜2.4%程度が一般的ですが、毎年かかるだけに、この差も決して侮ることはできません(要件の具体的数値はファンドのタイプによって異なります)。
わかりやすく言うと、つみたてNISAの対象商品は「とにかく手数料が低い」ということです。ファンド選びにおいて手数料は意外と見過ごされがちですが、チリも積もればなんとやら。実は重要なポイントでもあります。
インデックス型が多い理由
これらの要件をすべてクリアしたファンドは計148本(6月22日現在)。約5,000本(ETFを除く)ものファンドがあることを考えれば、ごく限られた数(約3%)だということがわかります。
その内訳は、以下のようになっています。
- 指定インデックス投信:131本
- アクティブ運用投信等:17本
- ETF(上場投資信託):3本
インデックス投信とは、日経平均株価やTOPIXといった指数(インデックス)と値動きが連動するように設計されたファンドのこと。反対に、ファンドマネージャーが銘柄を選んで指数を上回る成績を目指すのがアクティブ運用です。人に頼るため、どうしても運用コストが割高になります。
つみたてNISAの要件で言えば、国内株のインデックス投信では信託報酬の上限は0.5%とされていて、該当する32本の平均は0.27%。一方のアクティブ運用投信の場合は、上限1.0%に対して該当6本の平均は0.95%となっています。
【参考記事】【気になる隣の退職金】甘い罠をくぐり抜け……プラス13%の利益を出せた理由
つみたてNISAの注意点
「税金ゼロで手数料は低め」と、かなり魅力的なつみたてNISAですが、もちろん注意点もあります。
- NISAとつみたてNISAの併用はできない
- 投資可能期間は2018年~2037年
- 非課税投資枠は毎年40万円が上限
- 非課税投資枠に未使用分があっても、翌年以降に繰り越すことはできない
- 非課税期間終了後に、翌年の非課税枠に移すこと(ロールオーバー)はできない
なかでも注意したいのが、NISAとの併用ができない点でしょう。20年をかけて投資信託に800万円を積み立てていくか、5年で600万円を好きなように運用してみるか——自分にはどちらが合っているのか、よく考えて選択する必要があります(年単位での変更は可能)。
また、何より忘れてはいけないのは「投資」だという点です。いくら少額で、長期で、積立で……とリスクが低そうに思えても、最悪の場合は元本割れ、つまり投資した金額よりも減ってしまう可能性があることは、必ず覚えておきましょう。
【参考記事】巷で絶賛中のiDeCo でも実は、気をつけたい落とし穴もいっぱい
コストを見直す契機に
投資において「リターン(利益)」をコントロールすることは不可能です。なぜなら、どんな投資対象であっても、「絶対に儲かる」などということはないからです。投資家がコントロールできるのは「リスク(損失)」と「コスト(税金や各種手数料)」のみ。
それを考えると、「税金がかからない」「国お墨付きの低コスト」ということは、確実かどうかもわからない「リターンの高い金融商品」を探すよりも、よほど手堅いと言えるでしょう。
つみたてNISAは資産運用のはじめの一歩、と見られがちですが、一方で、この低コストに徹底した制度は、投資に慣れて、ついついコストを忘れがちな人ほど注目すべきかもしれません。ぜひ、つみたてNISAの対象商品と、いま保有しているファンドのコストを見比べてみてはいかがでしょうか。