IPOで上がる株・下がる株は何が違うのか? 初値のその後を追いかけてみた【2023年IPOランキング】
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをデータから読み解く【IPO通信簿】》
2022年からの新興市場の低迷は、残念ながら2023年も続きました。そんな中で、2023年に新規株式公開(IPO)を果たしたのは、96銘柄。2022年に比べると5件増加しました。
2023年のIPO市場について、新たに新興市場の指数となった東証グロース市場250指数の推移とともに、初値騰落率ランキングから上位と下位の銘柄を取り上げて振り返ります。さらには、それらの銘柄の株価の「その後」も追いかけてみたいと思います。
2023年の新興市場を振り返る
日本の新興市場の動きを示す指数として長く使われてきた「東証マザーズ指数」の算出が、2023年11月5日に終了しました。これ以降は「東証グロース市場250指数」が、新興市場の新たな指数となっています。
このグロース250指数の2023年の推移を見てみましょう。
チャートを見てみると、1~5月は横ばい、6月に上昇するも、7~10月はジリ安、11月に反発して、12月は下落後に値を戻す……という忙しい値動きの1年だったことがわかります。
ただ、もう一歩引いて振り返ってみると、実は2022年からの低迷がそのまま続き、10月には2022年6月の安値近くまで下落していたことが見えてきます。
新興市場の全体的な流れとしては、2023年は、2022年からの停滞が続いた1年、といえるのではないでしょうか。
2023年のIPO初値騰落率ランキング
新興市場がそのような状況だった2023年にIPOを果たした96銘柄の中で、初値が公開価格を大きく上回ったのは、一体どんな銘柄だったのでしょうか。初値騰落率ランキングから、まずはベスト10を見てみましょう。
・2023年のIPO初値騰落率ベスト10
アイデミー<5577>が約430%という数字を叩き出し、2位のジェノバ<5570>の348%を大きく引き離してトップとなりました。3位のispace<9348>の騰落率は294%で、2位と3位でも一定の差が生じています。
ベスト5に入った銘柄の業種を見てみると、実にバラエティに富む結果となりました。
- 1位:DX関連
- 2位:位置情報
- 3位:宇宙関連
- 4位:システム開発
- 5位:エンジン部品
ベスト10まで広げるとDX関連が3銘柄入っており、近年のDXブームがIPO市場にも影響しています。
また、一年を通して複数のAI関連銘柄がIPOするなど、2022年に続き、2023年もAIブームは続いていました。しかしながら、初値騰落率の観点で見てみると、2023年はAI関連銘柄にそれほど旨みはなかったようです。
・2023年のIPO初値騰落率ワースト11
ワースト1位はオートサーバー<5589>の▲14.6%。昨年9月に上場した中古車オークション代行サービスなどを手がける企業です。世間を騒がせたビッグモーター問題の余波を受けた格好となり、業種的にもタイミング的にも厳しく、結果も厳しいものとなってしまいました。
華々しくデビューした銘柄の、その後
様々な業種の銘柄が初値騰落率ベスト5に並んだ2023年ですが、IPO後、それらの銘柄はどのような株価推移を見せたのでしょうか。トップの3銘柄について見てみましょう。
【第1位】アイデミー<5577> ほぼ初値天井で寂しい結果に
2023年IPO組の中で初値騰落率でトップとなったアイデミー<5577>ですが、ご覧のとおり、ほぼ初値天井の状態です。
初値5560円で寄り付いた後、当日中に5760円の高値にまで到達しましたが、その後は下落が継続。2023年は1460円で取引を終えました。公開価格の1050円は上回っているものの、初値騰落率トップの銘柄の株価推移としては、寂しいといわざるを得ません。
【第2位】ジェノバ<5570> ほぼ初値天井で下落が継続中
初値騰落率2位のジェノバ<5570>も、残念ながらアイデミーと同様の株価推移です。初値2106円を付けた後、その日のうちに高値2300円に到達したものの、以降は下落が続くことに。公開価格470円からはまだ距離があるとはいえ、2023年の終値は892円でした。
1位と2位がそろって初値天井に近い状態というのは、2023年の新興市場の低迷を象徴しているともいえます。
【第3位】ispace<9348> 月への打ち上げ失敗が痛手に
3位のispace<9348>は1位、2位の銘柄に比べれば、まだIPO後の株価が維持されています。とは言っても、2023年の終値は916円で、初値1000円からは下げてしまっています。
IPO後に高値2373円に到達したものの、その後に行われた人工衛星の月面着陸実験が失敗に終わり、株価は1000円割れまで急落しました。一時2000円目前まで戻しましたが再び下落して、10月以降は900円を前後する水準で取引が続いたことになります。
公募割れから始まった銘柄の、その後
トップの銘柄たちがそろって寂しい株価推移をたどった一方で、初値が公開価格を下回る「公募割れ」から上場銘柄としての歩みをスタートさせた銘柄は、その後どのような株価推移を見せたでしょうか。ワースト首位のオートサーバーを見てみます。
【ワースト1位】オートサーバー<5589> 直後は下落するも反発
オートサーバー<5589>は2280円で初値が付いた後、さらに株価は下落し、IPO当日の終値は1916円でした。その後も下落は続き、10月には1478円まで下落しました。ただ、株価はその後に反発しており、1848円というIPO当日の終値に近い水準で2023年の取引を終えています。
【ワースト8位T】成友興業<9170> 初値後に上昇し年末急騰
2023年の公募割れ銘柄についてIPO後の株価推移を見てみると、全体的に、上のオートサーバーのような値動きが多い状態です。おおむねIPO後の株価は低迷していますが、その中で特徴的な値動きを見せたのが成友興業<9170>です。
10月13日に初値2116円でIPOした後、株価はほぼ初値を下回らずに推移しています。11月半ばからの上昇で2500円を突破し、さらに12月22日以降の上昇で高値3690円に到達しました。2023年は3200円で取引を終えています。
名古屋証券取引所のメイン市場に上場した銘柄で、投資家の注目が集まりにくく、出来高も少ない銘柄です。しかしながら、2023年の公募割れ銘柄の中では、その後の株価は健闘しています。
グロース市場の行方に注目
2023年のIPO市場は、初値騰落率で見れば、一定の上昇がなされた銘柄も出ています。ただし、IPO後の株価推移では、多くの銘柄が初値天井及びそれに近い状態となっています。
この状況下で、東京証券取引所はグロース市場に上場する銘柄について、上場維持基準をこれまでよりも厳しくする方針だと報じられています。具体的な基準は今後の議論の行方を見守る必要がありますが、2023年のIPO銘柄の株価推移を見ると、ハードルの引き上げはやむを得ない側面もあるでしょう。
長く指摘されてきた、新興市場の上場維持基準の厳格化がついに進む可能性のある2024年。IPO市場はどのような推移を見せるのか。今年のIPO第1号は2月7日に予定されています。上場維持基準の議論の行方も含めて、2024年もIPO市場の行方に注目です。